2011年04月21日(木) 12:00
誰しもが持っている記憶、思い出。それらに繰り返し立ち返ることで、新たな思いが生まれることがある。そして、そこから、これまでに抱いたことのない心境になったりするから面白い。
このように、過去はその時どきで変化していくもののようだ。
ならば、過去は育てることができるものとは考えられないだろうか。過去の記憶や思い出に新たな意味を見つけようとする。目を閉じて、そこに甦る風景から、これまで感じたことのない心境を発見していく。それができたら、過去を育てたと言える。
一見、難しいように見えるが、競馬ならできるような気がする。過去を育てる、競馬の中のどんな事が。記憶、あるいは思い出に置き換えてみれば分かりやすくなる。
古くは、トウショウボーイ。あのダービーでクライムカイザーに敗れたシーン。どの馬もが未知の思いでその距離に立ち向かうダービーだからこそのペース。トウショウボーイもそう考えたからこその配分で走った。そして先頭に立ったとき、その多くの思惑を打ち破る早いスパートで先頭を奪ったクライムカイザーがいた。これしかない戦法でかち得た勝利と記憶しているが、では、どの瞬間にあの戦い方を決意したのか。もう一度、両馬のそこまでに思いを広げてみよう。
ジャングルポケット。渡辺調教師、角田騎手の熱い師弟愛の勝利と記憶されている。師は弟子を信頼し、弟子は師のために勝ちたいと気持ちを引き締めていた。では、あの勝因はどこにあったのか。リズムに乗ることだけを心掛けたという騎手の落ち着きはどこから来ていたのか。その思いは、今でもこの胸の中でひそやかに息づいている。
新たな思いを抱くことで、過去は育っていく。そして、この先を推察するヒントだって得られる。そう、今、目の前で繰り広げられているどこかに結びつく。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。