2011年04月27日(水) 18:00
去る4月19日〜22日の4日間、浦河、静内(新ひだか町)、早来(安平町)の3会場で今年デビュー予定の2歳馬約800頭が産地馬体検査を受けた。
産地馬体検査とは、この時期北海道に多くの2歳馬が調教されており、函館や札幌などからデビューする馬も少なくないことから、トレセン入厩を経ずに競馬場へ直接移動できるメリットを考え、毎年この4月に3会場で実施されるものだ。
個体識別、伝染病の有無などが検査される。マイクロチップ導入とともに、個体識別に伴う労力はかなり簡素化されたものと思われるが、未だに検査は人間の目によって1頭ずつアナログ方式での“確認”によって行われる。また採血も獣医師によって実施される。
以下、4日間を簡単に振り返ってみることにする。
【浦河】 産地馬体検査は浦河から始まり、西に移動して早来で終わる日程で行われる。19日正午から浦河での検査がスタートした。こんな中途半端な時間設定なのは、午前中ここで調教が行われるためだ。
昨年、一昨年と、浦河は雨に祟られ、最悪のコンディションだったが、今年は晴れ。ただし気温が低く、北よりの風がやや強く、体感温度が低い。
浦河では、大半がBTC近郊に点在する育成牧場から受検馬がやってくる。午後3時半まで、約160頭が検査を受けた。
取材風景も昨年と同様だ。検査の終わった2歳馬が所定の位置まで戻ってきた時に立ち写真をお願いし、一度立ち止まってもらってカメラに収める。場合によっては付き添ってきた調教責任者や牧場の代表にその馬の近況を取材する場面もある。
風が強かったこともあるとは思うが、浦河の場合は、馬運車から降ろされた2歳馬たちが検査を受ける会場までかなりの距離を歩かされる。そのためかイレ込んでいる馬が多く立ち写真はかなり難しかった。後述するが、検査馬の「動線」に一工夫欲しいところ。
【静内】 2日目は静内。北海道市場が会場で、今年は4日間を通じ、この日が最も好天であった。
検査は1歳市場などで使用される待機馬房が充てられ、馬運車から降りた2歳馬たちは、順路に従って検査場所へと向かう。そして終わった馬はまた同じコースをたどって馬運車に戻る。つまり両側通行で人馬が行き来することになり、しばしば“渋滞”してしまう場面が見られた。
撮影場所を取材陣があらかじめ設定し、そこで一度立ち止まっていただいてカメラに収める方式は基本的に浦河と同じである。
この日の開始は午前9時。静内会場には、日高中西部の育成牧場が大半だが、中には浦河からも検査にやってくる馬がいた。
天候に恵まれたこともあり、条件としてはこの日が最も撮影に適していた。午後1時までに206頭(ただし欠場馬あり)が訪れ、検査を受けた。例年、産地馬体検査の際に撮影許可をいただけない育成牧場があり、その数は静内が最も多い。不十分な立ち姿勢での撮影を余儀なくされるために、不本意な写真になってしまうこと。あるいは、デビュー前からPOG関連の取材にアレルギーを持つ育成牧場もあり、そうした場合は無理強いなどできない。
牧場側の取材に対する受け止め方は千差万別で、毎年のことながら複雑な思いを味わう。
【早来初日】 21日は安平町に会場を移しての検査である。前日まで何とか天候には恵まれたが、この日は一転して小雨の朝となった。
早来会場はホルスタイン市場にて検査が行われる。ここは馬運車から降ろされた馬たちが検査を受け、再び馬運車まで戻る順路がもっとも短く、動線が合理的だ。
検査は普段、牛の市場が開設される巨大な市場内で実施され、出てきたところが撮影場所として設定されている。
浦河や静内では1組だけだった動画チームがここでは3組に増え、取材陣がやや多い。
早来会場にやってくる検査馬は、その多くが社台グループ生産馬である。この日が4日間を通じて受検馬が最も多く、223頭が名簿に記載されている。
浦河や静内では、ディープインパクト産駒がそれぞれ数頭ずつだったが、ここでは断然多い。その他、母系も名血馬揃いで、いちいちチェックできないくらいに続々と登場する。
先週の皐月賞の出走メンバーのうち、社台グループの生産馬がかなりの割合を占めたように、ここ数年の競馬は、生産地地図の上からも完全に「西高東低」で、POGにおいても、実質的に上位指名馬はここ早来会場の検査馬から選択される傾向になりつつあるらしい。
ため息の出るような素質馬が次々と目の前を通過して行く光景は見ていて飽きなかったが、何より驚いたのは、ここでは立ち上がったり、後退したりして反抗する2歳馬がほとんどいなかったことだ。
馴致が行き届いているせいなのかどうか。カメラマンの一人が「日高の馬は山猿だ」とポツリと言っていたのが頭に残っている。
幸い、朝の小雨は間もなく上がり、風もなく曇り勝ちながら撮影にはそれほど苦労せずに済んだ。
【早来2日目】 最終日。この日もまた朝から小雨。ただし、前日よりもかなり気温が低く、ついに終わるまで5度を上回らないまま終わる極寒の一日であった。
天候が崩れる前兆なのか、東よりの風がやや強く、取材陣は震えながらの撮影となった。
この日は168頭。前日よりも50頭以上少ないものの、中身はかなり濃い。コイウタ(父シンボリクリスエス)やビワハイジ(父ディープインパクト)なども登場した。
立ち写真の撮影は、まず取材陣のうち2人が「番号表示係」となり、ボードやスケッチブックなどに当該馬のヒップナンバーを大きく書き入れる。それをカメラマンたちは1枚撮り、その後に立ち写真を撮影するという手順だ。
多い人で4日間を通じ、1万枚以上は撮ったという。デジカメだからこそできる芸当で、フィルムカメラならばこんな真似はちょっとできまい。私も4000枚くらいシャッターを切ったが、そのおかげで整理が追いつかず、未だに手つかずの状態になっている。やれやれ。
来週は、道営ホッカイドウ競馬開幕日について書かせていただく予定。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。