エイダン・オブライエン・ウィーク

2011年05月11日(水) 12:00

 先週のヨーロッパは、「エイダン・オブライエン・ウィーク」だった。

 まずはバンクホリデーだった2日(月曜日)、カラ競馬場で行なわれた10FのG3ムーアズブリッジSに送り込んだのが、豪州から鳴り物入りで移籍していたソーユーシンク(父ハイチャパラル)だった。ニュージーランド産馬のソーユーシンクは、09年・10年と、ムーニーヴァレイのG1コックスプレート(2040m)を連覇したのをはじめ、5つのG1を含めて7つの重賞を制し、豪州中距離路線における近年最強馬と謳われた馬である。コックスプレートから連闘で臨んだG1マッキノンSを制したのに続き、中2日という超強行軍で臨んだG1メルボルンCで3着となった後、クールモアグループがトレードで獲得。今季はオブライエン軍団の一員として欧州で出走することになった。

 豪州とはコースの形状も芝の状態も異なる欧州における緒戦となったこのレース。しかも半年の休み明けでどんな競馬をするか、豪州のファンも含めて大きな注目を集めていたが、ソーユーシンクが出したのは「10馬身差の快勝」という満額回答だった。「これまでに感じたことのないオーラを感じる」と、オブライエン師も絶賛するソーユーシンクの次走は、5月22日にカラで行なわれるG1タタソールズGC(10F110Y)の予定だ。実はこれ、昨年英ダービーと凱旋門賞を制したワークフォース(牡4、父キングズベスト)が今季初戦として予定しているレースである。絶対に見逃せない一戦となりそうだ。

 4日(水曜日)に英国のチェスター競馬場で行なわれた、オークスへ向けての前哨戦LRチェシェアオークスを2.3/4馬身差で制した、ワンダーオヴワンダーズ(牝3、父キングマンボ)も、オブライエン厩舎の期待馬だ。母オールトゥービューティフルは英国オークス2着馬で、祖母は凱旋門賞馬のアーバンシー。ということは、母の兄弟にシーザスターズやガリレオがいるという、これ以上ないと言って過言ではないゴージャスな血統背景を持つ馬である。4月28日にティッペラリーで行なわれたメイドンで、デビュー3戦目にして初勝利を挙げた後、中5日で出走したチェシェアオークスで特別初勝ちを果たしたワンダーオヴワンダーズを、ブックメーカ−各社はオークスへ向けた前売りで、1000ギニー馬ブルーバンティング(父ダイナフォーマー)に次ぐ2番人気に支持している。なお、チェシェアオークスに出走した日本産のディープインパクト産駒サンデーベスは、残念ながら7着に敗れている。

 翌5日(木曜日)のチェスターでも、オブライエン厩舎は組まれた2重賞をいずれもモノにするという活躍を見せた。

 古馬による距離10F75YのG3ハクスレイSを4.1/2馬身差で制したのが、アウェイトザドーン(牡4、父ジャイアンツコウズウェイ)だ。2歳7月にナースのメイドンを4馬身差で快勝し、翌年のクラシック候補と騒がれたが、3歳春は故障で棒に振った同馬。3歳9月にレパーズタウンのG3キルターナンSを9馬身差で圧勝して重賞初制覇を果たし、期待にたがわぬ能力の持ち主であることを証明したが、その後に参戦を予定していたニューマーケットのG1チャンピオンSは、直前で出走を取り消していた。4歳緒戦のここで2度目の重賞制覇を果たしたアウェイトザドーンの次走は、ロイヤルスコットの10FのG1プリンスオヴウェールズSか、12FのG2ハードウィックSと言われている。

 同じく5日のチェスターを舞台とした、ダービープレップのG3チェスターヴァーズ(12F66Y)を制したのも、オブライエン厩舎のトレジャービーチ(牡3、父ガリレオ)だった。08年のタタソールズ・ディセンバーセール当歳セッションにて、18万ギニーで購買された同馬。2歳時は5戦して2勝した他、唯一の重賞出走となったアスコットの8FのG2ロイヤルロッジSでフランケルの3着という成績を残していた。今季初戦となったここで重賞初制覇を果たしたトレジャービーチに、ブックメーカー各社はダービーにおける前売りで、17倍から34倍というオッズを掲げている。

 6日(金曜日)のチェスター開催でも、主役を務めたのはオブライエン厩舎だった。この日行われた、古馬による距離13F89YのG3オーモンドSを、セントニコラスアベイ(牡4、父モンジュー)が9馬身差で圧勝したのである。2歳時、G1レイシングポストトロフィーを含めて3戦3勝の成績を挙げ、欧州2歳チャンピオンの座に就いた同馬。シーザスター級かと持て囃され、3冠を期待する声が上がるほど評価が高かったのだが、3歳緒戦の二千ギニーで6着に敗れて連勝がストップ。以降は一度もファンの前に姿を見せることなく、3歳シーズンを終えた。捲土重来を期してスタートさせた4歳シーズンだったが、緒戦となったカラのLRアレッジドSで3着に敗れ、背水の陣で臨んだのがオーモンドSだった。重賞2勝馬アライドパワーズを子供扱いしたことで、復調なったことを実証したセントニコラスアベイの次走は、6月3日にエプソムで行なわれる12F10YのG1コロネーションCと言われている。

 そして、「オブライエン・ウィーク」を締めくくる舞台となったのが、8日(日曜日)にレパーズタウンで行なわれたG2愛ダービートライアルS(10F)だった。英ダービーへ向けた愛国における最重要ステップとなるここで、オブライエン厩舎は1着から3着までを独占したのである。

 勝ったのは、単勝1.5倍の圧倒的1番人気に推されていたリサイタル(牡3、父モンジュー)だ。2歳時、2000mのG1クリテリウムドサンクルーを含めて2戦2勝の成績を残し、ダービー候補と目された同馬。今季初戦となったレパーズタウンのG3バリーサックスSで3着に敗れて評価を落としていたが、この勝利によってブックメーカー各社は再び、リサイタルを前売り3番人気に支持することになった。G1ガネイ賞勝ち馬コリカミノの全弟にあたるリサイタルは、09年のドーヴィルイヤリングセールで、市場2番目の高値となる75万ユーロで購買された馬である。

 愛ダービートライアルS・2着のメンフィステネシー(牡3、父ハリケーンラン)、3着のリージェントストリート(牡3、父ガリレオ)も、今後の重賞戦線で必ず名前の挙がってくる馬たちであろう。

 3歳から古馬まで、例年以上に豊富なタレントを揃えたオブライエン軍団。今後、どの駒でどこを獲りに行くか、使い分けも含めて注目されることになりそうだ。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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