2011年05月25日(水) 12:00
5月14日にドゥームベン競馬場で行なわれたGI・BTCカップ(豪、芝1200m)を制して、デビュー以来の無敗の連勝記録を“13”に伸ばしたブラックキャヴィア(牝4、父ベルエスプリ)が、次走に予定していた5月28日のGI・ドゥームベン10,000(ドゥームベン競馬場、芝1350m)を回避し、休養に入ることになった。管理するピーター・ム−ディー調教師が19日(木曜日)に明らかにしたものだ。
ケガなど一頓挫があったわけではなく、2月19日のGI・ライトニングSから12週間で5戦を消化したことから、そろそろひと息入れようではないか、というのが、路線変更の理由とのこと。確かに、2歳シーズンは2戦、3歳シーズンもわずか3戦と、大事に使われてきた彼女が、4歳シーズンを迎えた今季は春から数えて8戦を消化。その中には、58キロという牝馬にしては酷量を背負って戦ったGI・ニューマーケットHがあったり、ここ2戦は彼女にとって初めての経験となった地元メルボルンを離れての遠征競馬であったりと、心身ともに容易ではない競馬を続けていた。
結果として楽勝続きではあったし、ファンとしては彼女が走るところを何度でも見たいところではあるが、元来からして馬体重580キロという超大型馬で、脚元に気を使いながらのキャンペーンだっただけに、このあたりで4歳シーズンを終了にしようという陣営の判断を尊重したいと思う。
この結果、ドゥームベン10,000は、今季この路線のGIを2勝しながら、ブラックキャヴィアとぶつかった2月のGI・ライトニングS、4月のGI・TJスミスS、そして5月14日のGI・BTCカップではことごとく2着に泣いたヘイリスト(セン5、父スタチューオヴリヴァティ)の独壇場になる公算が強まった。
一方、現役に留まることがすでに発表されている来シーズンに向けて、英気を養うことになったブラックキャヴィア。目下無敗の13連勝を継続中であるだけでなく、昨年11月のGI・パティナックファーム・クラシック以来、GI・6連勝でドゥームベン10,000に勝てば1946年にバーンボローがマークしたGI・7連勝という豪州記録に肩を並べることになっていのだが、これを含めた様々な記録への挑戦は、来シーズンに持ち越されることになったわけだ。
今年後半のスケジュールについて、陣営は「白紙」としており、どこが始動戦になるかも現時点では未定である。日本のファンとしては、10月に中山競馬場で行なわれる、グローバル・スプリント・チャレンジ(GSC)第7戦スプリンターズSに出走し、その快速振りを日本のファンに披露してほしいところだが、関係者の話を総合すると、少なくとも5歳の春は地元で競馬をする公算が大きいとのこと。そうなると常識的には、10年も制しているGI・パティナックファーム・クラシック(11月5日、フレミントン)が、今年後半における最大の目標となるはずだ。
実は今、今年のパティナックファーム・クラシックで遂に実現するのではないかと、世界の競馬ファンが心待ちにしているのが、シンガポールが誇る快速王ロケットマン(セン5、父ヴァイカウント)とブラックキャヴィアの決戦である。
パティナックファーム・クラシックを主催するヴィクトリア・レーシング・クラブは、レースの総賞金を75万豪ドルから100万豪ドルに増額することを決定。さらに、GSCのボーナスとは別個に、昨年10月1日以降に豪州以外で行なわれたGSC対象競走の勝ち馬が、今年11月のパティナックファーム・クラシックを制した場合、60万豪ドルのボーナスを支給することをすでに発表している。現段階では、昨年のスプリンターズS勝ち馬ウルトラファンタジー、昨年の香港スプリント勝ち馬ジェイジェイザジェットプレーン、今年の高松宮記念勝ち馬キンシャサノキセキ、そして、5月22日にシンガポールのクランジで行なわれたクリスフライヤー・スプリントの勝ち馬ロケットマンの4頭がボーナスの有資格馬だが、中でも主催者が参戦を熱望しているのがロケットマンだ。
クリスフライヤー・スプリントを制して3月のドバイ・ゴールデンシャヒーンに続く自身2度目の国際GI制覇を果たしたロケットマンの陣営は、当面の目標として英国ニューマーケットのGI・ジュライC参戦を仄めかしているが、一方で、豪州遠征にもおおいに色気を見せており、近々関係者が豪州の検疫施設を視察に訪れると伝えられている。
ブラックキャヴィアとロケットマンと言えば、各々母国でカリスマ的人気を誇る、国民的ヒロインとヒーローだ。両馬の対決は、国の威信をかけた戦いとなるはずで、実現すれば何としても現地で目撃したいレースとなりそうだ。
バックナンバーを見る
このコラムをお気に入り登録する
お気に入り登録済み
お気に入りコラム登録完了
合田直弘「世界の競馬」をお気に入り登録しました。
戻る
※コラム公開をいち早くお知らせします。※マイページ、メール、プッシュに対応。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。