2011年06月15日(水) 18:00
今春、BTCの「育成調教技術者養成研修」第29期生が入講してからちょうど2ヶ月経った。
開講式は4月12日。3日後に1期先輩の28期生たちが修了式を迎え、その晴れ姿をいかにも似合わぬ(という以外にない)プロテクターや上下の作業衣に身を包み、ヘルメットを抱えながら29期生たちは間近で見送った。
「たった1年で、あんなに上手くなるものだろうか。とても自分には無理じゃないか?と正直思いました。だって、まったく馬に乗ったことも触ったこともないわけですから、不安ばかりが先に立って落ち着かなかったですね」と29期生の1人はその日の心境についてこう語る。
以来、2ヶ月。ほぼ毎日、乗馬漬けの日々を過ごしてきた彼らは、今、ようやく1周800mの本馬場に出て、駈歩までこなすようになっている。
6月13日(月)。この日は午前中に2鞍の訓練が行われ、21人いる29期生が2つの班に分けられて、1班ずつ本馬場入りした。内馬場にある角馬場にて調整した後、半数の10人(と11人)が教官の指示に従い1列縦隊で本馬場に入る。
常歩から軽速歩、そして駈歩までたっぷりと時間をかけてステップアップして行く。まだ騎座もやや不安定ながら、曲がりなりにも駈歩をこなすレベルまで到達していることに軽い驚きを覚えた。
「今はようやく本馬場入りしたところです。これから2頭ずつの併せ馬に進み、頃合を見て、今月中にはBTCの中に入れるつもりです」と斉藤昭博教官が今後の予定について教えてくれた。今年の29期生のレベルは「だいたい例年並みですね。ここまでは順調にきています」とのこと。
「昨年は残念ながら途中で数名リタイア組が出てしまったのですが、それは多くの場合、集団生活における人間関係に起因しています。今年はこと人間関係に関してはひじょうに良好だと思います」(斉藤教官)
前述したように、2班に分かれての作業、騎乗訓練はずっと続く。班の組分けはごく機械的に名前のアイウエオ順である。
1列縦隊になった訓練生が目の前を通過して行く。教官2人がずっと外側を併走しながら、1人ずつに厳しく指示を与える。欠点を矯正しているのだ。その都度、研修生たちは「ハイッ」と答える。いかなる誤魔化しも手抜きもできない。
「今がたぶん一番キツイ時期だと思いますよ。この2ヶ月は本当の基礎から始めてここまできましたから彼らには戸惑うことばかりだったと思いますね」(斉藤教官)
1年間という限られた期間で一定のレベルまで騎乗技術を到達させなければならないのがこの研修であり、そのためにはかなりの詰め込み、速成教育を余儀なくされる。その分だけ研修内容も厳しくなるわけだ。
とはいえ、どの研修生も口を揃えて「キツいけど楽しいです。毎日がとても充実しています」と言う。
馬漬けの毎日を送っていると、おそらくは自身の上達、進歩がはっきりと実感できるせいか、彼らは一様に溌剌としている。
騎乗訓練が終わると、鞍を外し、訓練馬たちを洗う。見ているとそういう一連の作業もかなり慣れた手つきになってきている。そして、2ヶ月前にはとても見られなかったほど不似合いだったヘルメットやプロテクターが、かなり体にぴったりと収まってきているのが分かった。
「毎日、乗る馬は変わります。だから自分の担当馬というのは決まっていません。馬によって性格も乗り味も全く違うのでマニュアル通りには行かないですね」と研修生の1人が苦笑いしていた。それはそうだろう。戸惑うことの連続だとは思うが、何とか乗り切って欲しい。
ここまでの2ヶ月はいわば基本で、夏になると彼らはそれぞれ牧場実習に送り込まれる。また機会を見て彼らの研修風景を取り上げたい。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。