2011年08月03日(水) 12:00
7月29日(金曜日)、グロリアス開催4日目を迎えたグッドウッド競馬場で行われた2歳牡馬・セン馬のG2リッチモンドS(6F)で、ハーバーウォッチ(牡2、父アクラメーション)が1番人気に応えて優勝。これを受け大手ブックメーカーのウィリアムヒルは、来年の二千ギニーに向けたアンティポスト(前売り)で、ハーバーウォッチに11倍のオッズを提示して1番人気にインストールすることになった。
アイルランド産馬で、叔父にG2ギョームドルナーノ賞など重賞3勝のカブール(父グルームダンサー)、3代母が名牝フォールアスペンで、近親に北米2歳チャンピオンのティンバーカントリー、世界チャンピオンのドバイミレニアムらがいる牝系を背景に持つのが、ハーバーウォッチだ。
当歳秋に地元ゴフスの当歳市場に上場され3万3千ユーロ(当時のレートで約435万円)で購買された後、購買者が転売を企図して1歳夏のドンカスター市場に上場されるも2万8千ポンド(約375万円)でも買い手がつかずに主取りとなった同馬。タタソールズ・ディセンバーセール1歳セッションに改めて上場されて、5万8千ギニー(約810万円)でエージェントのピーター・ドイル・ブラッドストックに購買された。
決して一流とは言えぬ市場を渡り歩き、マーケットにおける評価もそれなりだったハーバーウォッチだが、リチャード・ハノン厩舎の一員となってデビューを果たすと、非凡な才能を示し始めた。
6月12日にサリズバリー競馬場のメイドン(6F)でデビューを果たすと、ここを3.3/4馬身差で制して初戦勝ち。続いて7月7日にニューマーケットで行われた条件戦(6F)に駒を進めて、ここも4.1/2馬身差で連勝。デビュー3戦目となったのがG2リッチモンドSだった。
前走の条件戦で2着に退けたバーワーズ(牡2、父エクシードアンドエクセル)が、26日に行われたG3モルコムSで2着に好走したことから、評価が更に高まり2.0倍という圧倒的人気を背負うことになったハーバーウォッチ。先行グループを前に見る3〜4番手で競馬をすることになったが、あと2F標識あたりで追い出しにかかり、先行馬群を抜き去ろうとしたとのその時、先行していた1頭のバゴート(牡2、父バハミアンバウンティ)が右に大きく寄れ、その影響をモロに受けたハーバーウォッチも進路を大きく右にとることになった。すかさずそこを突いたのが、前走ニューマーケットのG2ジュライS3着馬で2番人気に推されていたバンノック(牡2、父バートリーニ)で、ぽっかりと空いた進路を通って一旦は先頭に立った。だが、態勢を立て直したハーバーウォッチが改めて進撃を開始すると、脚色は桁違いで、結局はハーバーウォッチが後続に2.1/4馬身差をつける完勝に終わった。
管理するリチャード・ハノン師はレース後「不利がなければ4〜5馬身差で勝っていたよ」とコメント。ハノン師と言えば、セールで廉価で買った馬を走らせる名人だ。そんな厩舎の先輩に、2009年のこのレースの勝ち馬で、3歳時シャンティのG1ジャンプラ賞を勝つことになるディックターピンがいるのだが、ハノン師は「現状ではハーバーウォッチの方がディックターピンより上」と評価。更に距離についても「7Fはまず問題ないはずで、8Fも大丈夫だろう」とコメントしている。陣営のそんな高評価もあって、来季の二千ギニーへ向けたアンティポスト戦線で一気に浮上することになった。
父アクラメーション(その父ロイヤルアプローズ)は、6FのG2ダイアデムSの勝ち馬で、G2だった時代のキングズスタンドS(5F)でも2着になっているスプリンターだ。その産駒にもG1キングズスタンドS勝ち馬エキアーノらスプリンターが多い。一方、前述したように、ごく近い近親に2000mのユージンアダム賞を制したカブールがおり、牝系はスタミナの要素を含有している。リッチモンドSでのレース振りも、一介のスプリンターとは思えぬものであった。
ちなみに、二千ギニーへ向けたアンティポスト戦線で、現段階でハーバーウォッチと2強状態を形成しているのが、A・オブライエン厩舎のパワー(牡2、父オアシスドリーム)だ。
こちらも、デビュー以来3戦3勝。6月14日にアスコットで行われたG2コヴェントリーS(6F)で重賞初挑戦初制覇と、ハーバーウォッチと似たような過程を踏んでここまで来ている馬である。こちらの父オアシスドリームも、自身はニューマーケットのG1ジュライC(6F)を制しているスプリンター。一方で牝系は、姉にG2リブルスデイルS勝ち馬サカファートがいて、叔父に二千ギニー馬フットステップスインザサンドがいるという背景を持つ。
ハーバーウォッチとパワーがどこかで顔を合わせるかどうかが、今後の欧州2歳戦線の1つの焦点となりそうだ。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。