2011年08月10日(水) 18:00 4
かねてより東日本大震災による福島第一原発事故の影響で、所有者が避難しているなどの理由により健全な飼育が困難になっている馬たちを一時的に避難させるべく、受け入れを進めてきた日高町に、9日午前、第一陣の9頭が馬運車で到着した。
9頭は、いずれも元気な足取りで馬運車のタラップを降り、多くの報道陣や関係者が見守る中、家畜保健衛生所の職員によって放射線量の測定などが行われた後、用意された厩舎に収容された。
日高町豊郷にあるこの牧場は、その昔北斗牧場スタリオンセンターとして種牡馬が多く繋養されていた場所で、現在は日高町の法理牧場が管理する。放牧地と厩舎が独立した空間に位置しており、現在使用されていない施設だという。
到着した馬たちは牡4頭、セン馬4頭、牝1頭という内訳で、リストは以下の通り。
1.メジロマイヤー(父サクラバクシンオー)12歳
2.グラスワールド(父Rahy)15歳
3.ドンヤマト(父ジェニュイン)5歳
4.メイショウアーム(父ジェイドロバリー)13歳
5.ジュワユース(父ダンスインザダーク)9歳
6.ニイルセン(父シングスピール)7歳
7.トガミハリヤー(父ナスエルアラブ)14歳 牝馬
8.トミケンマイルズ(父マジックマイルズ)11歳
9.オースミスキャン(父スキャン)16歳
全て競走歴のあるサラブレッドばかりで、中にはメジロマイヤーやグラスワールドのように中央の重賞勝ち馬も混じっている。
メジロマイヤーはきさらぎ賞、小倉大賞典を制したオープン馬で、32戦6勝。2億円を稼いだ馬だ。顔の流星がかなり特徴のあるタイプなので、覚えておられるファンもいるだろう。
また、グラスワールドはダービー卿チャレンジトロフィーを含め49戦7勝。獲得賞金はメジロマイヤーを上回る2億2600万円余に達する。中央の重賞馬はこの2頭だけだが、他にもメイショウアームは南関東公営で3勝ながらジャパンダートダービー2着の実績を持っているし、トミケンマイルズは同じく南関で2つの重賞を制し、1億円近くを稼いだタフな馬である。
これらは、いずれも種牡馬になり切れず、乗馬となって相馬の野馬追に参加していたとのこと。今回の大震災被害によって、期せずして生まれ故郷である北海道への避難が実現したわけである。
日高町では単独で南相馬市と連絡を取り合い、被災馬の一時避難先として町内にある複数の牧場で受け入れに踏み切った。補正予算を組み、全体で3500万円をこの被災馬支援と受け入れに充当させる計画である。
このうち三分の一はダーレージャパン(株)からの援助で賄われることもすでに決定しており、今後さらに被災馬受け入れを拡充させて行く予定という。計画によれば最大で50頭の枠を設けているとのこと。
これら9頭は、とりあえず来年5月までは日高町に避難させ、その間の管理費や往復の輸送費などは前記の予算から捻出される。ただし、それ以降のことは未だ正式には決まっていない。
また、今のところ日高管内で被災馬の受け入れに取り組んでいる市町村は日高町のみ。放射能汚染が一向に終息する気配のない中、今後はさらなる支援体制が他の市町村にも求められよう。誰がどのように費用負担をするか、という厄介な問題は残るものの、生産地として何ができるか、具体的にどれだけの馬をどのような形で受け入れられるかが問われてくる。
改めて記すまでもないことだが、今回到着した9頭は全て北海道で生まれたサラブレッドたちであり、うち8頭はここ日高管内の生産馬たちだ。中には偶然にも私宅の隣の牧場で生まれた馬もいる。おそらく潜在的には、まだまだかなりの数の馬たちが避難先を求めているはずである。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。