2011年08月31日(水) 18:00
昨年、口蹄疫の影響で中止となった道東の名物行事「第35回馬事競技大会」(標津・中標津地区馬事愛好会主催)が去る8月28日(日)に中標津町南中にある特設競馬場で開催された。
1周約1000mのダートコースと、内側に200mのばんえいコースを併設するこの競馬場は民有地にあり、1年に一度この日だけ使用される。
早朝から抜けるような青空となったこの日、草競馬愛好家が道内各地より続々と集合した。ばんえいと平地、繋駕競走まで全33レースを1日でこなす草競馬である。おそらく、これほど多くのレース数をこなすのはいまや日本でもここだけではなかろうか。
午前8時頃にはほとんどの出走馬が集まり、受付が始まった。馬の数は例年よりもやや少なめで、70頭〜80頭といったところか。ばんえいが6割、繋駕や平地が4割くらいの割合になる。大型の農用馬(ばんえい)から軽種馬、トロッター、ドサンコ、ポニーまで、多彩な種類の馬がここに集まってくる。
ばんえいに出走するポニーの測定
午前8時半。ばんえいに出走するポニーの体高計測が始まった。近年、ばんえい愛好家の間では大型馬よりもポニーにそりを曳かせて出場するのが主流になりつつあり、クラス分けは原則として体高によって分類される。
後述するが今年はばんえい用ポニーがやや少なく、その分だけ例年よりも少し出走頭数が減ってしまった印象だ。
ばんえいポニーはABCDの4クラスに分類され、クラスごとに負担重量が異なる。最上級になると170キロものそりを曳く。体つきはポニーながら完全にばんえい馬のそれに“改造”されており、見るからに力強い。
ポニーといえど、なかなかマッチョ
第1レースは午前10時発走。それから正午までの約2時間に、何と19レースもこなすのだから大変だ。見ているとしばしば周回コースとばんえいコースの両方でレースが同時進行していたりして、忙しいことこの上ない。
レース実況は毎回釧路市から出張してきている迫田栄重アナ。たった1人で全レースの実況をこなす。しかも、ばんえいと平地の“二元中継”である。
のみならず、出走馬は当日の受付が終了しなければ確定しないので、いろいろな事情や都合によって、レース順が入れ替わったり、中止になったりと、実況もまた大変な難行となる。
次々とレースの実況をする迫田アナ
この日、浦河からはポニー乗馬スポーツ少年団を中心に馬11頭で遠征した。道東の草競馬ではポニーというと今やばんえいが中心になっていて、平地競馬に出走するポニーはほとんどいない。ここにくると、改めて同じ北海道ながら日高と道東との馬文化の違いを感じる。
コースはダートだが、砂というよりも土に近く、かなりラフである。ハロー掛けをすると今でもピンポン玉大の石が露出してくるほどだ。ラチは棒杭に虎ロープを巻きつけただけの、いたってってシンプルな代物で、向こう正面に行くとラチそのものがない場所もある。
観客スペースは一応設けられているが、露店も並んでおり、わずか数メートル幅の細長い外ラチ沿いの場所に、それぞれ敷物や簡易テントなどで観戦場所を確保している。今年は露店も観客もやや少なめであった。中標津空港ではこの日航空ショーが開催されており、そちらに人が流れたとも聞く。太陽光線が照りつけるものの湿度は低く、屋外イベント日和ではあった。
ばんえい競馬には、毎回、帯広競馬場から「プロ」が参戦する。今回も、久田厩舎、岩本厩舎、金田厩舎などの名前を見かけた。大型の家畜車(馬運車ではない)ではるばる帯広から馬を連れてくるのだ。
距離にして200キロは下るまい。のみならず日曜日のこの日はナイター開催中でもある。なぜここにプロが来場するのかは謎なのだが、とにかく道東の草競馬には必ず帯広の人たちを見かける。
トロッターによる速歩レース
トロッターのよる速歩競走は午前中ABCに分割されて実施される。そして午後になると、ソルキーと呼ばれる二輪馬車を装着され、今度は繋駕(けいが)レースにも出走する。
昔は日本でも普通に行われていた速歩や繋駕だが、今や道東方面でしか見られなくなっているはずだ。平均年齢はかなり高く、上は70代にもなるだろう。若い世代も徐々に育っているものの、競技人口は極端に少なく、伝統をいかに守って行くかが課題である。
ソルキーが接触!?レースは迫力満点
さて、浦河ポニー少年団は午前中2つのレースに出場した。前述したように、道東には平地競馬にポニーを使う例がほとんどなく、今回も小中学生の騎乗は浦河の子供たちのみであった。現状では「他流試合」が実現する機会が北海道ではほぼなくなっている。これもまた今後の課題である。
浦河ポニー少年団の熱戦!
毎回、ばんえいは多くのポニーが参戦してくるが、今回は思ったほど人馬が集まらなかった。その理由は何と同日、新ひだか町三石で、ポニーばんば大会が開催されたせいだと後で知った。新ひだか町ではこれまでポニーばんば大会など開催されたことがなかったのだが、今年初めて行われ55頭ものポニーが集まったのだという。
何人もの中標津常連組の顔が見られなかったのはそのせいであろう。愛好家同士の横の繋がりや統一組織がないので、日程調整もままならないらしく、こうして出走馬が二分される結果になったのは何とも残念だ。
なお、道東方面ではこれからが本格的な草競馬シーズンを迎える。
明後日9月2日には、帯広の隣町である音更町にて「東士幌ばんえい競馬大会」が行われる予定だ。伝統あるこの草競馬は今回で数えて100回目を迎えるという。毎年9月2日に日程が固定されているそうで、かなりの賑わいだと聞く。こういうイベントもまたいかにも北海道らしい。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。