ロマンティックに浸る秋

2011年09月15日(木) 12:00

 昔を思い出して、ちょっとロマンティックに浸るのも悪くない、秋だから。

 ヴェルレーヌは、秋の日に聞くヴァイオリンの音色を、長く弾くすすり泣きといい、曲もない悲しみで私の心をしめつけると書き記した。そして、落ち葉のように風のまにま、ここかしこに吹きやられ彷っていくと嘆いている。そんな感性が自分にあるだろうか。少なくとも、あればいいなと思ったのは事実だった。ずいぶん昔のことだが。

 その頃、競馬とポエムを結びつけることをよくしていた。

 サラブレッドを見つめていて、まず引きつけられたのが、その瞳だ。鈴を張ったようなという表現が伝えられているが、ここからひとつポエムを書いた。

 とどかぬものへ手を差しのべ、時の向こうへ駆けていく、走って走ってさらに遠くへ、愛は限りなくひきよせる、狂ったように雪降り続き、行方定めず、心うねる、こがれる瞳の誘惑。

 どの馬を見てそう思ったというのではないのだ。一生懸命に走るだけの馬の姿にそんな思いを寄せたのだが、その後、レースを見ながら、いつも馬の気持ちにばかり気を奪われていた。そして、レースに敗れてその大きな瞳を塗らしているのを見たような気にもなっていたのだ。

 若いから、ちょっと意気がってみたときもあった。

 ギャンブリング人生、ランブリングひとり歩き、気ままな世界がたまらなく、俺は踊って歩いたものさ。肩きる風も心地よく、人生どっこいうま味があるさ、思って信じて胸張って、町中みんながニッコリと、元気な俺を迎えてる、ギャンブリング人生、ランブリングひとり歩き。

 とにかく面白かった。一度走り出したら止まらない、そんなだったのだ。ところで今どきの秋、暑くてそんな気分にさせてくれない。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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