2011年10月06日(木) 12:00
景色から教養を読み解く、これは大名庭園を鑑賞するポイントのひとつだそうだ。見事な作りはいずれも人為的に造成されたものだが、そこに潜む主の教養を知ることで、その庭園を深く解釈することができる。なるほどではないか。
物事を鑑賞するとは、どういうことか。もう少し普段から心得ておくべきことがあるのではないかと気になって仕方ない。
競馬だって鑑賞する気遣いがあってもいいのではないか。馬、そしてレースと。
日本民芸美術館を設立した柳宗悦は、美しさの魅力は現れた姿よりも、匿(かく)れている力にこそ潜んでいる。物に驚きがあるなら、それを産んでくれる人に一段と驚きが感じられねばならない、と説いている。
どういう眼差しで対象物を捉えるか、示唆に富んだ言葉だと書き留めておいたのだ。
現れたその姿に魅力を感じられたら、一歩突き進んで、匿れた部分にまで思いを描いてみたらどうか。サラブレッドの美しさを、さらに奥深く見つめてみる。つまり、その瞳でなにを考えているか、語りかけてみるのもひとつのやり方かもしれない。
そして、どんな期待を担ってトレーニングを積んできたのか。それを知ることは、とにかく実際を見ることではないか。「今見ヨ、イツ見ルモ」と柳宗悦の心偈(こころうた)には書かれていた。頭で考えたり、知識を駆使して見るのではよくない。とにかく、見るのだ。
そしてその瞬間の直観、そこから得るものを大切にする。見て直ぐに反応する心を大事にする。その繰り返しから、やがて自分なりの馬に寄せる思いがふくらんでくるはずだ。
スタンドに立って馬を見て、生のレースを体感してこその競馬ではないか。自分なりの鑑賞眼ができたら、一段とステップアップした上等な趣味を身につけたに等しい。競馬をどう読み解くか、そして語り合おうでは。
バックナンバーを見る
このコラムをお気に入り登録する
お気に入り登録済み
お気に入りコラム登録完了
長岡一也「競馬白書」をお気に入り登録しました。
戻る
※コラム公開をいち早くお知らせします。※マイページ、メール、プッシュに対応。
長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。