凱旋門賞でオルフェーヴルのライバルとなるのは?

2011年10月26日(水) 12:00 4

 まずは、日本競馬史上7頭目の3歳3冠を達成したオルフェーヴル号とその関係者に、心からのお祝いを申し上げたい。

 菊花賞後、管理する池江泰寿調教師から出された、かなうものなら来年の秋は凱旋門賞に挑みたいというコメントには、心躍らされる思いがした。いよいよ来年こそ、欧州2400m路線の総決算となっている競走で、センターポールに日の丸が翻るかもしれない。

 御承知のように、今年の凱旋門賞はデインドリーム(牝3、父ロミタス)が優勝。過去10年のうち8年、過去20年のうち15年において3歳馬に凱歌が上がっており、巷間言われている通り、凱旋門賞は「3歳世代優勢」の傾向が顕著なレースとなっている。

 そうであるならば、相当に気の早い話にはなるが、来年の凱旋門賞でオルフェーヴルにとって最大の敵となるのは、欧州における現2歳世代ということになる。

 目下、来年の英国ダービーへ向けたブックメーカーの前売りで、1本被りと言っても良い人気を博しているのがキャメロット(牡2、モンジュー)だ。

 英国産馬のキャメロットは、昨年10月にニューマーケットで開催されたタタソールズ・ディセンバーセール・ブック1最終日にハイクレア・スタッドから上場され、セール6番目の高値となる52万5千ギニー(当時のレートで約7300万円)でクールモアの代理人デミ・オバーン氏に購買されている。

 父はその段階で既に、モティヴェイター、オーソライズドと、輩出した英ダービー馬が2頭(その後、2011年のダービーを産駒プルモワが制したから、現在は3頭)、ハリケーンラン、フェイムアンドグローリー、フローズンファイアと、輩出した愛ダービー馬が3頭という、超A級種牡馬である。

 その一方で、母のターファー(その父キングマンボ)は、ニューマーケットのG3ダリアSを制したのが唯一の重賞勝ち。母以外には、兄姉、祖母、叔父・叔母、従兄弟など、ファミリーツリーの近しいところにはG1勝ち馬どころか重賞勝ち馬すら1頭も居ないから、オクトーバーセルのブック1に上場された馬の中では、血統的にはむしろ下層に属する馬であった。

 それにも関わらず、市場6番目の価格がついたということは、馬の出来が相当に良かったものと推察される。

 エイダン・オブラインエン厩舎の一員となったキャメロットは、7月14日にレパーズタウンで行われたメイドン(8F)でデビュー。道中最後方からあと1Fで先頭に立ち、後続に2馬身の差をつけて初戦勝ちを飾った。

 この段階で既に、来年のダービーへ向けたアンティポストで1番人気に遇するブックメーカーも出現したのだが、その地位を確定的にしたのが、10月22日にドンカスターで行われたG1レイシングポストトロフィー(8F)だった。御存知、英国で翌年のダービーへ向けた登竜門的位置づけにある一戦である。実際に、01年のハイチャパラル、04年のモティヴェイター、06年のオーソライズドと、過去10年の勝ち馬のうち3頭が、翌年のダービーを制している。

 そういうレースでキャメロットは、単勝1.9倍の圧倒的1番人気に応えて快勝したのだ。しかもその勝ち方が、初戦同様の最後方一気。あと1F付近で馬群の外に持ち出すと、他馬を子供扱いする末脚でライバルたちを一気に抜き去ったのである。

 これを受けてブックメーカー各社は、ダービーへ向けた前売りにおけるキャメロットのオッズを、4~4.5倍に設定。大本命に座に付けることになった。

 各社ともダービーの2番人気には、ボーントゥシー(牡2、インヴィンシブルスピリット)と、パリッシュホール(牡2、テオフィロ)の2頭を、同評価として横に並べている。

 今年の2歳世代における、血統的観点から見た最大の注目馬と言えるのがボーントゥシーだ。母アーバンシーと言えば、ご納得いただけよう。G1・6勝の欧州年度代表馬シーザスターズ、G1・3勝の欧州3歳王者にして大種牡馬のガリレオなど、4頭のG1勝ち馬を兄姉に持つ同馬。自身が凱旋門賞馬で、歴史的名繁殖牝馬となったアーバンシーにとって、最後の産駒となるのがボーントゥシーなのである。

 シーザスターズと同じく、クリストファー・ツィー氏の所有馬としてジョン・オックス厩舎の一員となったボーントゥシーは、9月10日にカラのメイドン(6F)でデビュー勝ち。レース後にオックス師は「兄と比べるのは時期尚早」と、控えめなコメントを出したが、これだけの良血馬が初戦勝ちをしたのだから、ファンの期待が高まるのは自明の理だ。

 父は現役時代、ヘイドックのG1スプリントCを制した快速馬。産駒も、G1ジュライC勝ち馬フリーティングスピリット、G1モーリスドゲスト賞勝ち馬ムーライトクラウドらが出ているから、父系は明らかにスピードダイプである。そういうわけで、目下のボーントゥシーは、ダービーよりも2000ギニーに向けた前売りで、より高い人気を博している。

 ボーントゥシーが未知の魅力を買われているのに対し、実績を評価されているのがパリッシュホールだ。

 10月8日にニューマーケットで行われた、英国における2歳王者決定戦的位置づけにあるG1デューハーストS(7F)を制した同馬。叔母にハードル戦で3勝した馬がいたり、近親にG1ゴールドC(20F)勝ち馬エンゼリがいたりと、スタミナに富んだ牝系を背景に持っているため、この馬は2000ギニーの前売りよりもダービーの前売りで人気になっている。

 ただし、ボーントゥシーもパリッシュホールも、ダービーへ向けた目下のオッズは17~21倍だ。すなわち、4~4.5倍のキャメロットとの間には、大きな隔たりがあるのだ。

 来季のキャメロットがどういうローテーションを歩み、どんな競馬をするか。日本のファンにとっても、目の離せない存在となりそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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