天皇賞・秋で見た大胆と慎重のはざま

2011年11月03日(木) 12:00

 大胆に見える勝利でも、慎重な構えがあってこそという例を、大レースの勝因の中に見つけることが多い。大胆は慎重の上に建つということのようだ。

 こんな話を知っているだろうか。「彫刻をするとき、鼻はできるだけ大きく彫り、目はなるべく小さく始めたほうがいい。大きな鼻は小さくできるが、小さな鼻は大きくはできない。また、小さな目は大きくはできるが、大きな目は小さくはできないからだ」と。

 中国の古い話に出てくるのだが、いつでも修正がきくように考えておけということであり、慎重さが必要と言っているのだが、どんなことにも通用する言葉だ。

 大レースでは、とりわけ修正のきかないことが多い。それだけ厳しい局面に追い込まれるのが常で、そこは慎重さがもとめられる。

 そこまでくるには、多くの人たちの努力があったのだから、水泡に帰すことはできないし、なにが最善かを忘れてはならない。

 この馬は、どう戦ったときが一番いいのかを知って、いざ一発勝負になったときは、ひたすら、その瞬間の訪れを待つ。伏兵にはこの備えこそが最大の武器になる。いたずらに戦況に惑わされず、常に自分の構えを崩さずにいるということだ。

 一見して大胆に見える伏兵の戦いぶりなのだが、実はそれほど慎重なのだ。大胆は慎重の上に建つを、天皇賞・秋のトーセンジョーダンに見たではないか。あの日本レコードはどうして生まれたか。逃げたシルポートの1000m通過が56.5秒だったが、このペースにトーセンジョーダンがどう対処していたか。明らかに慎重に構えていたからこそのあの激走であったことには違いない。

 もしかしたら、最大限に持てる力を発揮するためにというフォローの意味があった戦い方に、大きな幸運が訪ずれたのかもしれないが、あれだけの走りは力がなくてはできない。充実一途の今後に夢が広がる。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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