2011年11月12日(土) 12:00
出世レース。普通は、社内での昇進争いなどのことだが、競馬の世界では、「出走馬がのちに大レースを勝つことの多いレース」を指す言葉になっている。
次に挙げる馬名を見てほしい。
プリモディーネ、ピースオブワールド、スイープトウショウ、ラインクラフト、アストンマーチャン。
これを見ただけで、私の言わんとすることがわかった人はかなりのデータ派に違いない。
これら5頭は、のちにGIを勝った、2歳牝馬GIII・ファンタジーSの勝ち馬である。
「出世レース」として、私がまず思い浮かべるのは、このファンタジーSと、次に列挙する勝ち馬を出したレースだ。
シンコウウインディ、タイキシャトル、ウイングアロー、ゴールドティアラ、アグネスデジタル、ユートピア、カネヒキリ。
おわかりだろうか。そう、3歳ダート重賞のユニコーンSである。
これらふたつのレースは確かに「出世レース」ではあるが、重賞なので、すでにある程度のところまで出世した馬たちの争いと言えなくもない。
やはり、「え、あの馬もこの馬もここに出ていたの?」という意外性のある条件戦のほうが、出世する前とあとのギャップがきわだって、「出世レース」らしい気がする。
ということで、この馬たちが勝った1000万(かつては900万)特別は?
97年ステイゴールド、2001年マンハッタンカフェ、02年ファインモーション、07年ホクトスルタン。
答えは札幌芝2600mの阿寒湖特別。なお、ステイゴールドが勝ったときは芝2000mだった。
では、次。
(1)エイシンチャンプ、アドマイヤメイン、ウオッカ、トールポピー、リベルタス。
(2)サイレントディール、グロリアスウィーク、マイネルソリスト、ヤマニンキングリー、ミッキーマスカット。
何のこっちゃ、と思われるかもしれないが、ヒントは「今週末」。なお、このヒントは本稿がアップされてすぐ読んでくれた人にのみ有効である。
それでは答えを。
(1)が黄菊賞の2002、05、06、07、10年の2着馬で、(2)がそれぞれの年の勝ち馬である。
黄菊賞は11月半ばに京都の外回り芝1800mで行われる500万下特別であるから、暮れの2歳GIやラジオNIKKEI杯2歳Sを陣営が意識する馬が多く出てきて、「出世レース」になりやすいのは頷ける。
が、2着馬のほうが勝ち馬より出世するケースが多いのはなぜだろう。
先々を見据えて無理に仕上げず、「この時期の500万下ならとりこぼしてもいい」という余裕残しの状態で出てくる馬が2着になりやすい……といったあとづけの理由を無理に当てはめることもできなくはないが、「競馬とはそういう不思議なことが多々あるものだ」と考えるほうが、なぜか納得できてしまう。
と、ここまで書いたところで、以前本稿に「ダービー2着馬」と「残念ダービー2着馬」が勝ち馬に負けないほど出世している、と記したことを思い出した。
なぜそれらの2着馬がのちに結果を出すのか理詰めで説明するのは難しいが、負けてもその後いい結果を出している馬がこれだけいるという事実は、失敗ばかりしている我が身に照らすと勇気づけられる。
今週末、エリザベス女王杯の日に行われる黄菊賞を勝つのは……いや、2着になるのはどの馬だろうか。楽しみに見守りたい。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所