有馬記念にみる生産現場

2011年12月22日(木) 12:00 10

 今年も残すところ、あと10日になった。毎年、年の瀬になると1年の経つのがなんと早かったことかとしみじみ感じる。年齢のせいでもあるだろうが、あっという間に時間だけが通り過ぎてしまった印象だ。

 今年を振り返って、まずどんな1年だったかを端的に表現すれば、「より格差が進行した1年」であったということになろうか。

 例えば、市場。日高で開催された市場が軒並み平均価格を下落させたのを尻目に、社台グループの生産馬が数多く上場されるセレクトセールでは空前の売れ行きを示し、とりわけ初日の1歳市場においては、セレクト史上最高の数字を叩き出した。2日目の当歳市場も堅調で、終わってみればわずか2日間で96億円を超える大商いとなった。

 日高の市場が4市場(トレーニングセール、セレクションセール、サマーセール、オータムセール)13日間で、計55億円余の売り上げにとどまったのとは対照的に、生産の世界では圧倒的な「社台グループの一人勝ち状態」に終わった。

 もっとも、こうした傾向は今年に限らない。すでに、現実の競馬においては周知のように、極端な偏りが見られる。社台グループ生産馬抜きではGI競走が成り立たないほどの圧倒的格差が生じており、そんなムードが市場における購買者心理に反映しているのである。

 言うまでもなく、今週末の有馬記念は、実に出走予定馬の16頭中11頭までが社台グループ生産馬によって占められており、中でも注目を集めるのは三冠馬オルフェーブルと女王ブエナビスタとの初対決だ。

オルフェーブル

ブエナビスタ

 1年を締めくくる有馬記念に、日高産馬の出走はわずか5頭しかおらず、しかも分が良くない。アーネストリーやヒルノダムールなどがこの社台包囲網を突破できるかどうかがポイントになる。

 とはいうものの、改めて感じるのは、11対5という出走頭数の差が、そのまま現時点における社台グループと非社台系との力量差になっている点である。

 個人的な話で恐縮だが、月刊誌で毎月、日高を中心とした重賞勝ち馬の生産牧場を歴訪する連載を担当するようになってそろそろ3年経つ。GII、III(障害を含む)の生産馬を送り出した牧場を1軒ずつ訪ね歩く企画で、この連載が始まってからこれまで何度か、ネタが尽きかけた。

 できるだけ従来取材に行ったことのない牧場にスポットを当てる、という趣旨ではあるものの、そうそう簡単に日高の中小牧場がGII、IIIといえども勝てなくなってきている現実をこの3年間で嫌というほど思い知らされた。

 だが、手をこまねいてばかりいては何の希望もない。質量ともに社台グループに対抗できる生産牧場はちょっと見当たらないのだが、ナンバーワンにはなれずとも、「オンリーワン」を目指して日々奮闘する生産牧場が、数少ないものの確実に存在する。今後、期待が持てるとすれば、そうした「独自路線」を歩む牧場群である。

 現状ではなかなか夢も希望も持てない生産界だが、競馬人気復活のためには、日高の奮起が不可欠であろう。

 来年はどんな年になるか。せめてひとつでも多く明るいニュースが増えることを願ってやまない。

【お知らせ】
『生産地だより』の次回更新は1/11(水)になります。ご了承の程よろしくお願い致します。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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