株式会社ジェイエスが主催する「冬季繁殖馬セール」が1月25日、新ひだか町静内の北海道市場を会場に開催された。このところ、北海道は例年以上の厳しい寒さが続いており、この日も午前中は時折雪がちらつくあいにくの空模様となった。

　開場となった午前11時には多くの関係者が名簿を片手に、それぞれ目当ての馬が待機している馬房まで足を運び、1頭ずつ引き出してもらっては馬体のチェックに余念がなかった。

　正午を過ぎても気温は零下のままで、この日は終日プラスになることがなかった。幸い、市場が始まる午後1時には雪も止んで太陽が顔を覗かせるようになったものの、随所に設置されたジェットヒーターの前から動けないくらいの冷気で、青森からはるばる遠征してきた知人などは「こんなに寒いとはいったいどういうわけだ」と驚いていたほどであった。

　冬季の繁殖馬セールは、出産と配合シーズンを目前に控えた今の時期の駆け込み需要を狙って、未供用馬などが上場される。今回は名簿上で51頭の牝馬が申込みをしていたが、当日になり6頭が欠場。最終的に45頭が上場された。せり開始は午後1時である。

　昨秋の繁殖馬セールと同様に、オンワード牧場(5頭、但し3頭欠場)、ノーザンファーム4頭、社台コーポレーション4頭といったところが目に付いたが、何といっても今回の市場は、エクセルマネジメント(旧・えりも農場)からの上場馬が圧倒的に多く、その数17頭に及んだ。全上場馬の実に3分の1に上る。しかも1頭の欠場もなく全馬が上場され、残らず全てが完売となった。

　余計なお世話だが、エクセルマネジメントの2011年度の生産頭数は25頭である。一気に17頭もの繁殖牝馬の“放出”は、規模縮小の方向に舵を大きく切った結果なのか。このところ、古くからのオーナーブリーダーが廃業したり身売りしたりするニュースが頻繁に聞こえてきており、ちょっと気になる。

　ところで、このセールにおける最高価格馬と次点価格馬は、いずれもこのエクセルマネジメントからの上場馬であった。

　最高価格馬は11番「ファストパス」(父タイキシャトル、母エリモシック、8歳鹿毛)で1060万5000円(税込)。アルデバランIIを受胎しており、最終種付け日は4月24日。激しい競り合いの末に竹園正継氏が落札した。

　周知の通り、本馬の母エリモシックはエリザベス女王杯を含め4勝した名牝であり、また本馬の従兄弟にはリディル、クラレントなどがいる。

　次点は13番「フィフスアベニュー」(父マンハッタンカフェ、母エリモパッション、8歳青鹿毛)の892万5000円(税込)。ブライアンズタイムを受胎しており、4月3日が最終種付け日。本馬の兄にはエリモブライアン(4勝、ステイヤーズS他)、エリモシャルマン(4勝、重賞入着あり)がおり、叔母にはオークス馬のエリモエクセルがいる名血である。同じく竹園正継氏が落札した。

　また空胎馬では、50番「イッツスパーブ」(父ファルブラヴ、母シュペリユール、4歳鹿毛)という繁殖未供用馬が、703万5000円で小川眞査雄氏により落札された。上場は社台コーポレーション。本馬は2勝馬だが、母シュペリユールは5勝を挙げており、祖母は秋華賞馬ファビラスラフインである。

　終わってみれば、上場45頭中、33頭が落札され、合計8534万4000円を売り上げた。売却率は73．33％。1頭当たりの平均落札価格は258万6185円。上場頭数では前年比1頭増だが落札頭数は1頭減となったことから売却率はほんのわずか低下した。しかし、売り上げは逆に前年比2443万円もの大幅増となり、平均価格も約80万円上昇した。

　この市場を振り返って、(株)ジェイエスの藤原悟郎市場長は「牝馬を流通させることによって、これから生まれる牝馬の価値も上がると期待したいですね。上場頭数は理想的にはもう少し欲しいところですが、45頭しかいなかったので大変活発な取引だったと思います」と語り、「現役馬を所有するオーナーは、所有馬が引退する際にはぜひ当セールに上場していただければ」と結び、当セールを「90点の出来です」と高く評価していた。

　なお、45番に登場した「グラニースミス」はディープインパクト産駒。2世代目が今年クラシック戦線でさらに活躍しそうな予感のあるディープだが、こうして早くも初年度産駒が繁殖用に登場する時代になったのだ。時代の流れの速さに戸惑いすら覚える。因みにこの馬は325万5000円で日高町の生産者に落札されたことを付記しておく。

【お知らせ】
「生産地だより」の次回更新は2/2(木)18時になります。何卒ご了承の程よろしくお願い致します。