義経神社初午祭

2012年02月08日(水) 18:00

義経神社社殿 先週2月3日の節分の日、平取町にある義経神社で恒例の初午祭が開催された。義経神社は、その名の通り源義経の御神体を祀る神社で、開基は寛政11年(1798年)とされている。江戸後期の探検家である近藤重蔵が、この地アイヌの人々に崇拝されていた源義経の木像を祀る一廟を建立したのが始まりらしい。

 現在の社殿は昭和36年(1961年)に新たに建てられたもので57坪あり、屋根は銅板で葺かれている。日高の数ある神社の中では最も雰囲気のある社殿だ。

雪の積もる境内を巡る 初午祭は、源義経が馬を大切にする騎馬武者であったこと、この地が馬産地であること、初午の日に祈願をすれば願いが叶うと言われていることから、昭和48年(1973年)頃より行われるようになり、今年で40周年を迎えた。

 午前11時。神主を先頭に、御分霊の幤を載せた神馬とともに参拝者が境内を1周する参進から初午祭が始まった。その後、社殿に戻り、弊を奉安して祭事を行うのである。 この日は幸い、晴れ時々曇りのまずまずの天候で、いよいよ「矢刺しの神事」が執り行われる時刻となった。

 この行事は直垂姿の年男が御神馬に跨り、今年の鬼門(戌=いぬ、ほぼ西北西)に向かって破魔矢を三射し、今年の邪気を祓うという神事である。この破魔矢を手にした人には今年一年幸運が舞い込み無事に過ごすことができるといういわれがあり、毎年競って参拝者が矢の争奪戦を展開することになる。

アグネスアーク 今年、この行事者を務めるのは、地元の平取町農協組合長の仲山浩氏。昭和27年9月生まれの仲山氏は今年還暦である。

 日高優駿学園より提供された神馬はアグネスアーク。2006年生まれのアグネスタキオン産駒で、社台ファーム生産馬。デビューから4連勝し、4歳秋には天皇賞2着という成績を残している。現在は乗馬として日高優駿学園にて供用されている。

 11時 55分。アグネスアークに颯爽と騎乗した仲山浩氏が破魔矢を勢いよく戌の方角に向け射ると、さっそく雪の中で多くの参拝者が矢を奪い合う光景が見られた。

 放たれた3本の破魔矢を掴んだ幸運の方々は次の通り。

能登浩さん(48歳、えりも町生産牧場経営)
岩橋勇二さん(28歳、日高町、ホッカイドウ競馬騎手)
稲原昌幸さん(38歳、平取町、軽種馬生産・育成牧場経営)

破魔矢放ち邪気払う 最初の矢を手中に収めた能登浩さんは「今年で3回目の参加ですが、初めて破魔矢を掴むことができました。この幸運にあやかりたい。生産馬がみんな無事に走ってくれて、賞金を咥えてきてくれたら嬉しいですね」と語った。

 2番目の矢をゲットした岩橋勇二さんは「嬉しいです。たまたま自分のいるところに矢が飛んできてくれて…。勝ち星を上げることはもちろんですけど、なにより開催期間中、無事に怪我をしないように騎乗したいと思います」と控え目なコメント。

右より、能登、岩橋、稲原の各氏

右より、能登、岩橋、稲原の各氏

 最後の1本を掴んだ稲原昌幸さんは「すごく嬉しいですね。これまで“触る”ことはあったんですけど、掴むところまで行きませんでした。親の代からの悲願達成です」と言って笑顔を見せた。

 無事に大任を果たした仲山組合長は「昨年は東日本大震災という未曽有の災害に見舞われた一年でしたから、今年は災害の少ない年になるように祈りながら、そして、生産者の皆様の一年間の健康と愛馬の活躍を祈念して破魔矢を三射しました。何とかうまく飛んでくれてよかったです」とホッとした表情を浮かべながら語った。

 なお、神社側の発表によれば、この日の参拝者は約120人とのこと。かつてはマイクロバスで若いスタッフを大勢引き連れて参拝する牧場などもあったと聞くが、さすがに今はないようで、これもまた時代の流れなのだろうか。

 ともあれ、今年はこの2牧場と岩橋騎手に注目して行きたい。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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