“国民的ヒロイン”ブラックキャビアの熾烈な争奪戦

2012年02月29日(水) 12:00

 2月11日にコーフィールドで行われたG1CFオールS(芝1400m)から連闘で18日にフレミントンで行われたG1ライトニングS(芝1000m)に出走し、デビューから継続している無敗の連勝記録を“19”に伸ばしたブラックキャヴィア(牝5、父ベルエスプリ)を巡って、オーストラリア各地の競馬場の間で熾烈な争奪戦が勃発している。

 ライトニングSの後、3連闘で25日にコーフィールドで行われたG1フューチュリティS(芝1400m)に向かうプランや、3月31日にドバイのメイダンで行われるG1ゴールデンシャヒーン(AW1200m)に参戦するプランも検討されたブラックキャヴィアだったが、馬主と調教師が話し合いの末に出した結論は、「ロイヤルアスコットを唯一最大のターゲットとする」ローテーションだった。

 ブラックキャヴィアが海外に出るとしたら、時期は今年6月、標的は英国のロイヤルアスコット開催というのは、早くから言われていた計画である。その後、ドバイから猛烈なアプローチがあり、陣営の間で思惑の違いが取り沙汰された時期もあったが、出された結論は原点回帰だったわけだ。ブラックキャヴィアは今後、6月23日に行なわれるG1ダイヤモンドジュビリーS(芝6F)に向けて、いかに馬をピークに持っていくかを最優先に、調整を積まれることになった。

 そういうわけで、3連闘でフューチュリティSに挑む案も、ドバイに遠征する案も消滅。ひと息入れた後、国内で1戦してチューンナップを施した上で、6月初旬に渡英というローテーションが、管理するP・ムーディ調教師から発表されたのである。

 遠征前の1戦がどこになるかは、あくまでも馬次第だが、候補となるレースとしてムーディ師が挙げたのが、4月28日にアデレイドのモーフェットヴィル競馬場で行われるG1ロバートサングスターS(芝1200m)、5月12日に同じくモーフェットヴィル競馬場で行われるG1グッドウッドS(芝1200m)、5月12日にブリスベンのドームベン競馬場で行われるG1BTCカップ(芝1200m)の3競走だった。

 ところがその後、メルボルン地区をはじめ各地の競馬場から、「ブラックキャヴィアの次走は、ぜひウチの競馬場で」というオファーが舞い込みはじめたのである。

 ブラックキャヴィアと言えば今や、オーストラリアでは競馬ファンでなくとも存在を知っている、国民的ヒロインである。ピンク色のサーモンにキャヴィアの黒い粒があしらってある服色を模した商品が続々と世に出て、彼女が出走する日の競馬場は、そんなブラックキャヴィア・グッズを何らかの形で身に付けたファンで溢れかえるのだ。

 ましてや次走は、いよいよ世界に雄飛するブラックキャヴィアにとって壮行レースであり、オーストラリアの競馬ファンにすれば、彼女が走る姿を目の前で見る最後のチャンスとなるかもしれない一戦となる。

 なおかつ、勝って20連勝となれば、20世紀前半にデザートゴールドとグローミングが記録した19連勝を越える、メトロポリタンと呼ばれるオーストラリアで最も水準の高いカテゴリーにおける、最多連勝新記録達成となるのだ。

 ゼニヤッタのラストランとなった、2010年ブリーダーズCの舞台となったチャーチルダウンズ競馬場を包んだ熱狂を、思い出してほしい。ブラックキャヴィア20連勝の舞台となる競馬場で、あの、まさに狂ったような喧騒が再現される可能性が高いのである。興行主であれば、「ぜひウチの競馬場で」とプロモートをかけて当然の状況なのである。

 フレミントン競馬場が目論んでいるのが、5月19日に予定されている準重賞サラトガシックスS(芝1200m)の条件変更だ。通常だとハンデ戦で行われるこのレースだが、ブラックキャヴィアがハンデ戦に出たら何キロ背負わされるかわからず、出走の可能性はない。そこで、今年に限って同競走を別定重量戦に変更し、当然のことながら賞金も大幅に増額して、国民的スターを誘致するべく動き出したのだ。

 レースの新設を計画しているのが、コーフィールド競馬場だ。ムーディ師のから候補に挙がった3競走の施行日である4月28日と5月12日は、いずれもコーフィールドで開催が予定されている日なのだ。ならばこのいずれかの日に、当初の予定にはなかった1100mか1200mの別定重量戦を組み、それなりの賞金を用意すれば、ブラックキャヴィアを呼べる可能性が出て来ると考えたのだ。

 1996年7月13日、アメリカの名馬シガーが、サイテーションの持つ近代競馬の連勝記録“16”に肩を並べた一戦は、「サイテーション・チャレンジ」という名のノングレードのレースだった。アーリントン競馬場が、時のスーパースターを誘致するために組んだレースで、シガーの16連勝は達成されたのである。

 海外では、興行主である競馬場が、そういう臨機応変な番組編成を行なうことが珍しくない。

 ブラックキャヴィアの次走がどこになるか、まだしばらくは目が離せない状況が続きそうだ。

合田直弘氏イベント

「Uoooma Jockeys' Cafe」が3月20日開催

合田直弘氏が司会を務める競馬イベント「第1回 Uoooma Jockeys' Cafe」が3月20日(火・祝)11時より、東京都・港区の汐留シティセンターで開催されます。

同イベントでは、中央競馬の後藤浩輝騎手がプロデュースした料理、愛飲のスーパー栄養ドリンクが飲食できる他、競馬ゲーム「Champion Jockey」(PS3版)を使用したUoooma コーエーテクモ杯を開催。優勝者には、後藤騎手と同ゲームで対戦ができる権利とスペシャルな優勝レイ(GI仕様)が贈呈される。また、松永幹夫調教師もゲストとして出演する予定です。お誘い合わせのうえ、「ジョッキーをもっと身近に感じる」一日を体験してみてください。

▼ 合田直弘氏の最新情報は、合田直弘Official Blog『International Racegoers' Club』でも展開中です。是非、ご覧ください。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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