ドバイワールドCレース展望

2012年03月21日(水) 12:00

未曽有の震災に打ちひしがれた日本人の心に勇気を届けた、感動の1、2フィニッシュから1年。今年のG1ドバイワールドC(AW2000m、3月31日、メイダン競馬場)にも強力な日本代表馬たちが挑む。

 相手関係は、昨年よりも揃っている。筆頭は、2011年のサラブレッドランキング第7位という「世界ランカー」のソーユーシンク(牡6、父ハイチャパラル)だ。ニュージーランド産馬で、オーストラリアでデビューした同馬は、連覇を果たしたG1コックスプレート(芝2040m)をはじめ、2000m路線を中心に5つのG1を制した後、2011年は愛国のA・オブライエン軍団の一員となって欧州でキャンペーンを行なった。欧州でも、10F路線で3つのG1を制覇。2400mの凱旋門賞やダートのBCクラシックに色気を見せた終盤は崩れを見せたが、芝10F路線に限れば6戦4勝、2着2回と、ほぼ完璧な成績を残している。

 問題は初めてとなる、タペタというブランドの人工素材を敷き詰めたメイダンの馬場をどうハンドリングするか、だ。豪州の芝も欧州の芝もこだわりなく克服した馬だけに、タペタで大きく減速するとは思えぬが、走法から見てタペタに向いた馬というわけでもないと見ている。つけいる隙はあるはずだ。

 牝馬のセックスアローワンスを加味すれば、レイティング的に2番手評価となるのが、アメリカから参戦のロイヤルデルタ(牝4、父エンパイアメーカー)だ。昨シーズン、G1BCレディースクラシック(d9F)を制して全米3歳牝馬チャンピオンの座に輝いた馬である。昨年春、ポリトラックが敷設されたキーンランドのメイントラックを舞台とした一般戦(8.5F)で勝利を収めており、タペタへの対応に不安はない。

 今季初戦となった2月25日のG3サビンS(d8.5F)は、勝ち馬に8馬身も離された2着に終わったが、休み明けはもともと走らないのに加え、勝ったのは、故障で昨年後半を棒に振らなければ秋のチャンピオンシップでライバルになったと見られている、G1・2勝馬オウサムマリア(牝5、父マリアズモン)だったから、「大敗」をそれほど気にする必要はなさそうだ。

 北米から参戦するもう1頭が、シルヴァーチャーム、キャプテンスティーヴで既にこのレースを2度制しているボブ・バファートが送り込むゲイムオンデュード(騸5、父オウサムアゲイン)である。昨シーズン、G1サンタアニタH(d10F)、G1グッドウッドS(d9F)などを制した他、G1BCクラシック(d10F)でも2着に入っている同馬。クッショントラックが敷設されたハリウッドパークのメイントラックを舞台としたG1ハリウッドGC(10F)でも2着となっており、この馬もタペタには問題なく対応出来るはずである。

 今季初戦となった2月5日のG2サンアントニオS(d9F)を、相手が弱かったとはいえ、濃い内容で勝ち上がった後、連覇がかかっていたサンタアニタHを回避してここへ照準を絞っただけに、おおいに不気味な1頭と言えそうである。

 3月10日にメイダンで行われた前哨戦のG1マクトゥームチャレンジ・ラウンド3(AW2000m)を4馬身差で制し、ゲイムオンデュードと同等のレイティングを得たのがカポーニ(牡5、父メデイシアン)だ。

 前走が重賞初制覇だった同馬。前走とは相手が全く違う本番で、前走同様のパフォーマンスが出来るとは思えぬが、2009年のG1ドバイデューティーフリーを圧勝したグラディアトーラス的な雰囲気が、無くもない馬である。

 レイティング的にはカポーニの1つ下に、昨年のドバイワールドC3着馬モンテロッソ(牡5、父ドバウィー)と横並びで5番手評価となっているのが、2着に惜敗した昨年に引き続いての参戦となるトランセンド(牡6、父ワイルドラッシュ)である。

 2着馬を離して勝つ競馬をする馬ではないため、レイティング面でやや軽視されるのは致し方の無いところで、能力やコース実績を総合的に判断すれば、有力な優勝候補の1頭であることは間違いない。

 昨年との違いは、有力馬に先に行ける馬が多いことだ。同じ日本勢のスマートファルコンだけでなく、北米のゲイムオンデュードも先行する馬だし、カポーニの前走も2番手から早めに先頭に立っての勝利だった。こうした馬たちとの「兼ね合い」云々よりも、他馬の動きに惑わされずに自分のペースを守り、自分の競馬を貫けるかどうかに、昨年より1つ上の着順を獲得できるかどうかのポイントがあると言えそうだ。

 レイティングの序列で言うと、トランセンドのすぐ下にランクされるのが、エイシンフラッシュ(牡5、父キングズベスト)とスマートファルコン(牡7、父ゴールドアリュール)になる。ともに早くからこのレースに照準を合わせ、招待を心待ちにしていた2頭である。

 早くから照準を合わせていたということは、当然のことながらタペタは巧みであるとの目算が陣営にあるわけで、両陣営の目論見通りに馬場をハンドリングし、能力マックスの競馬を見せることが出来れば、2頭とも充分に争覇圏に入ってくる馬たちと言えよう。

 昨年よりは間違いなくタフな競馬になりそうだが、結果として昨年の再現もありうる情勢にあると見て良さそうである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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