2012年03月20日(火) 18:00 14
日本に勇気を! ヴィクトワールピサの快挙達成に沸いた11年ドバイワールドカップのレース回顧をお届けします!(取材:島田明宏)
◆日本への思いを胸に
日本競馬史に輝かしい一歩
「日本の3頭はそれぞれタイプが違うので、どんな展開になっても、どれかにチャンスがあると思います。今、日本は震災で大変厳しい状況にあるので、なんとかいい競馬をして、みんなを元気づけられたらいいですね」
ドバイワールドCにヴィクトワールピサを送り込む角居勝彦調教師は、レース前、現地メディアにそう話した。
レース当日のメイダンのAW(タペタ)は、大量の水がまかれたこともあって、ワールドCの前のレースを見ていると、昨年より1秒ほど時計がかかる感じだった。第3レースのゴドルフィンマイルが1分37秒65という遅い時計で決着したのを見て、トランセンドの前田幸治オーナーが言った。
「ワールドCはビッグチャンスやで。ウチの馬は4コーナーを馬なりで回ったら、直線でさらに伸びるから」
第8レースのドバイワールドCのゲートがあいた。
藤田伸二騎手のあやつるトランセンドが、宣言どおりスッとハナに立った。ヴィクトワールピサとブエナビスタは、15馬身ほどの隊列の最後方と後方2番手からレースを進めることになった。
向正面でペースが落ち着き、これはトランセンドの流れか、と思われたそのときだった。
ヴィクトワールピサが馬群の外からスルスルとポジションを上げ、1000mを通過するあたりで先頭のトランセンドに並びかけた。普通、道中で仕掛けると、そのまま抑えが利かなくなるものだが、鞍上のミルコ・デムーロ騎手に迷いはなかった。
「この馬はワンペースなので、バックストレッチでペースが遅くなったときに動いたほうがいいと思った」
ピサも内のトランセンドも抜群の手応えで直線に入った。
ケープブランコ、ジオポンティといった前評判の高かった世界の強豪が追い込んでくるが、日本の2騎は譲らない。ラスト300mあたりでヴィクトワールが抜け出しかけたら、内からトランセンドがしぶとく差し返す。
脚勢からして勝つのは日本の2騎のうちどちらかだ。が、何度も差を詰められながらも、終始ヴィクトワールがトランセンドより前に出ている。
ライバルの追撃をしのぎ切ったヴィクトワールのデムーロ騎手がゴールした瞬間、右の拳を突き上げた。
世界の頂点に立った人馬
「アンビリーバブル! ファンタスティック!」
今年32歳、日本で12年乗りながら腕を上げた名手は、何度もそう叫んだ。
「ジャパンCとイタリアのダービーを勝ったことがあるけど、そのなかでもきょうの一戦がベストレースだね」と感慨深げに語った。
「日本の馬が3頭もワールドCに出られるようにしてくれたことに感謝しています。日本に明るいニュースを届けることができてよかったです」
角居師はそう言って笑顔を見せた。
「ゆっくりめのスタートを切ったのに、向正面で前を全部かわした鮮やかな騎乗にはハラハラしました(笑)。勝てるかどうかは、ゴールするまでわかりませんでした」
香港メディアから、ウオッカとの比較について問われると。
「力は拮抗しているがタイプが違う。ウオッカは軽い高速馬場で強さを発揮した馬。ヴィクトワールはパワー型のスピード馬です。だから、タペタへの適性があるんじゃないかな、と。力があることを、世界の舞台で証明できてよかったです」
次の目標は、香港のクイーンエリザベス2世Cになりそうだ。そして、秋には、昨年苦杯をなめた凱旋門賞に再度チャレンジする。
「一戦ごとに強くなっているような気がします。ミルコがこの馬の脚質を把握して、うまく競馬をしてくれていますよね」
期待されたもう一頭、ブエナビスタは、後方から伸び切れず8着に終わった。手綱をとったライアン・ムーア騎手は、「競馬にならなかった。直線で、行くところ、行くところで前が壁になってしまった」と肩を落とした。
トランセンドの前田オーナー、安田調教師ともに、悔しさのなかにも満足感を感じさせる表情で、「日本の馬が勝ってよかった」と口を揃えた。
「日本のみなさんのために、自分には競馬でしか何かをすることができない」
そう言ったのはムーア騎手だった。
勇気を日本へ…思いは一つ
この偉業達成が、沈んだ同胞たちの表情に笑みを与えてくれることを、心から望んでいる。
netkeiba特派員
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