2012年04月05日(木) 12:00 5
古来「敗軍の将は以(もっ)て勇を言うべからず」と戒めている。勇をとは、勇気が不足していたことをだが、敗者は敗者なのだから、決着がついた刹那にあれこれ問い質すのは適切ではないということでもある。
敗れて口惜しい相手に敗因は何であったかと迫っても、その場の雰囲気に流されて出る言葉は正しいとは限らないし、敗者は何を言っても弁解でしかない。なのに執拗に質問するのは残酷だ。
レースの終了後、いつも強く感じていたことだが、逆に敗者が理路整然と敗因を述べている姿には、時折、違和感を覚えたこともあった。そんなに冷静でいられるものかと。
レース後のインタビューとは、何であろうか。その状況を思えば、そこから発せられる言葉をどう理解するか、かなりの感性がもとめられる。無遠慮に相手の懐に土足で踏み込むことは許されない。敗因を正しく分析するなら、当事者も聞き手も少し時間をかけるべきである。
世間は、その一部始終をいち早く知ろうとする。マスコミは、それに応えるべく競ってインタビューを迫る。相手にせっつく。これがエスカレートし、すっかりその状況を当たり前と思うようになる。どんなに辛辣な問いにも、口惜しさをおさえて言葉を口にしなければという姿があるのだ。やがて、ぞんざいなやり取りが常態化していく。
すべてがこんな風になっていくとは、もちろん言うべきではないが、「敗軍の将は以て勇を言うべからず」の戒めには、戦うものの潔さがある。そのこころを知るものなら、勝負がついた後、当事者にどう接するかの思いがあるべきだろう。
敗者に対する接し方に終始したが、レースでは敗れることが圧倒的に多い。勝つことのほうが珍しいから、勝因を述べてもらうのはお互いに心地よい。ヒーローの晴れやかな姿に拍手を送りつつ、敗者への心遣いも少し。
長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。