2012年05月02日(水) 18:00
去る4月11日に開講式を迎え、1年間の研修がスタートしたBTC育成調教技術者養成研修第30期生。今回、入校したのは21名(うち女性4名)で、さっそく乗馬訓練が始められている。先日(5月1日)、馬に乗り始めた30期生の訓練風景を見学してきた。
21名の中には乗馬経験者も数人いるので、今のところ彼らは「別メニュー」である。ただし、ここでは「多少の経験ならばすぐに未経験者でも追いつける」と教官の1人は言う。中途半端な乗馬経験が、かえって育成馬の調教に応じたスタイルへの移行にハンデになる場合もあるらしい。
30期生の訓練風景
プラスティック製コーンとパイプで仕切られた20m×30mほどの空間に、教官を含めて7頭が隊列を組み、常歩から速歩、軽速歩までを何度も繰り返す。1人ずつに対して指示する教官の声が響く。まだ基礎の段階なので、ここではもっぱら騎乗姿勢の安定、矯正を重点的にチェックされる。見ていると、それぞれが良くいえば個性的、悪くいえばバラバラの姿勢でようやく乗っている印象だ。
「○○、かかとを落とせ」「お尻をもっと前に」などと繰り返し注意される研修生たちだが、まだ余裕がないせいか教官からの指示にもなかなか十分に返事ができない。「聞こえているなら返事をしろ」などとも言われていた。
どの訓練生も真剣だ
ひとつハプニングが発生した。未経験者と前述の乗馬経験者が2つのグループに分かれ、覆馬場の両端に離れてそれぞれ訓練をしていた時、突然、経験者グループの1人が落馬したのであった。いきなり自由になった栗毛の乗用馬は、しばらくエリア内を走り回り、なかなか捕まらない。その間、他の研修生は乗ったまま自分の馬を御すのに苦労している。
幸い、訓練馬は総じて年齢が高く、落ち着いた性格の馬が多いので、研修生を振り落とした乗用馬が捕まるまで大暴れすることなくじっとしていた。これが1歳や2歳ならば大変なことになっていたかも知れない。1頭に何か異変があると、他の馬たちも付和雷同的に興奮するのが馬の習性だから、おそらくプラスティック製のコーンやパイプなどものともせずに体当たりし、どこかへ逸走して行ったであろう。
その様子を見ていた研修生の表情は一様に緊張していたが、これもまた今後訓練を続けて行く過程で避けては通れない道でもある。
「落馬はみんなどこかで必ず経験する。落ちることは決して恥ずかしいことではない。ただ、上手な落ち方をしなければ大怪我に繋がることだけ覚えておくように。経験豊かな騎乗者ほど落馬した時に手綱をいつまでも握ってしまい(馬を放さぬようにするため、である)かえって大怪我になりがちだ。まず、落馬をしたら、他の研修生も最初に教官の指示を聞くように。分かったか?」
さまざまな体験を経ていく
研修生は単に乗るだけではなく、早朝から夕刻まで、一通りの作業も行う。馬装、騎乗の他、手入れ、馬房掃除、放牧、集牧など、一般的な牧場で行われている作業がすべてカリキュラムに組まれている。それらもみんな研修の一環であり、とにかく慣れるまでが大変だ。
今回は個別に取材できなかったのだが、いずれ近いうちに何人かの研修生を紹介しながら、彼らの馬業界への思いにも触れてみたいと思う。なお30期生の最高齢者は29歳。20代の社会人経験者も数人いる。
総じて研修生の平均年齢はここ数年少しずつ高くなってきている傾向にあり、とりわけ一度社会人を経験した後に、馬業界参入の夢を絶ち切れず、ここに入ってきた若者がこのところ何人もいる。次回は彼らが外の馬場で駈歩までこなせるようになった頃にまたお邪魔してみたいと考えている。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。