来週はHBAトレーニングセール

2012年05月16日(水) 18:00

 去る4月24日(火)に中山競馬場で開催されたJRAブリーズアップセールは、74頭が上場され全馬が落札される驚異的な売却率を記録した。売り上げ総額7億2865万円(前年比1億2690万増)、平均価格は984万6729円(同213万1921円増)と、いずれも前年を大きく上回る結果となった。

 また、5月14日(月)に船橋競馬場で開催された千葉トレーニングセールも、56頭中47頭が落札され、売却率83.9%(前年比8.9ポイント増)、総額5億8947万円(同1億4847万円増)と、過去最高の成績を上げた。

JRAブリーズアップセール

JRAブリーズアップセール

 これらを見る限り、即戦力としての2歳馬需要は堅調で、昨今の不況などものともしない熱心な購買層がいることが見て取れる。

 しかし、それぞれの好調さの裏には強いブランド志向がある。JRA育成馬は、各地の1歳市場にてJRAが購買し、日高と宮崎のJRA育成牧場にて育成調教されるシステムで、昨年の取引馬の中から、桜花賞に3頭、皐月賞に1頭の出走馬を送り出した。さすがにGI競走では苦戦したとはいえ、この実績は光る。

 しかも、JRA育成馬現3歳世代で唯一の重賞勝ち馬であるモンストールや桜花賞5着と健闘したメイショウスザンナは、いずれも1000万円未満の落札価格であるという点も見逃せない。JRAブリーズアップセールにおける昨年の平均価格771万円よりも少し高い程度の価格帯からこうした馬が出現したことにより、市場への注目度がより高くなった。

 同様に、千葉トレーニングセールもまた、かなり極端なブランド志向が結果に出た市場となった。この市場を支える社台ファームからの上場馬は31頭いたが、これらはすべて完売となり、主取りの9頭はいずれも社台ファーム以外からの上場馬であった。

 しかも高額落札馬10傑のうち8頭が社台ファームの上場馬で占められるというワンサイドゲームで、これも昨今の競馬の風潮が反映している。サラブレッドにおけるブランド信仰がより一段と加速してきている印象が強い。

 ところで、これら2市場の結果は極めて盛況であったが、もうひとつ5月8日(火)に開催された九州市場(JRA宮崎育成牧場)は、22頭(前年比1頭増)が上場され14頭(同3頭増)が落札、売却率63.6%(同11.2%増)、売り上げ総額は2446万5000円、とここまではまずまずの数字だったものの、落札平均価格は174万7500円と、前年を28万5681円下回った。

 この平均価格では、昨年秋からの約半年間の育成費用を差し引くと、馬代金そのものはほぼ残らない計算である。だが、それでも個々の事情から市場に上場し売却しなければならない現実がある。

 とはいえ、血統、馬体、調教進度とともに、市場そのもののブランド価値がどの程度あるかによって、おおよその価格が決まってくる。この中から1頭でも多くの活躍馬が出てくることを期待せずにはいられないが、昨年までこの市場で取引馬された2歳馬たちのその後の競走成績が市場全体のムードを形成するわけで、平均価格の下落にはそれなりの理由があるのだろう。

 昨年末の荒尾競馬場廃止に伴い、九州の地方競馬は現在、佐賀競馬場しか残っていないことも落札価格に影響を与えているかもしれない。

昨年のHBAトレーニングセール

昨年のHBAトレーニングセール

 さて、駆け足で列島を縦断してきた2歳トレーニングセールも、いよいよ来週月火2日間の日程で行われるHBAトレーニングセール(札幌競馬場)がフィナーレとなる。昨年の取引馬のうち、現在中央に限ると2勝馬が3頭いるが、全体的に競走成績はやや低迷気味である。

 稼ぎ頭はキングオブローの7戦2勝で総収得賞金は2573万円だが、昨年のセール以来ほぼ1年が経過しても、未だに収得賞金ゼロの取引馬がかなりいる。またデビューしていても、収得賞金が100万円に達していない取引馬は半数を超える。

 地方競馬でデビューした馬も少なくないのでこの数字は割引いて考えなければならないが、即戦力としてはいささか厳しい数字と受け止めざるを得ない。

 来週はこのHBAトレーニングセールを見てくる予定でいる。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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