2012年05月30日(水) 12:00
日本のダービーが終わり、いよいよ今週は英国のエプソムで、6月1日(金曜日)に牝馬の第234回オークス、翌2日(土曜日)には牡馬の第233回ダービーが施行される。
アンティポストの情勢を見ると「4強対決」といった図式になっているのが、牝馬のオークスだ。
大手ブックメーカー各社がオ3.0倍から3.5倍のオッズで1番人気に推しているのが、A.オブライエン厩舎のメイビー(牝3、父ガリレオ)だ。アルカナ・ドーヴィル・イヤリングセールにて34万ユーロでクールモアの代理人に購買されたメイビー。5戦してG1モイグレアスタッドS(芝7F)を含む3重賞を制し、負け知らずの5連勝で2歳シーズンを終えた馬である
そういう実績の馬ゆえ、シーズンオフのアンティポストで1000ギニーの大本命に推されていたのに加え、多くのブックメーカーがオークスでも本命に推していた同馬だったが、今季初戦となった5月6日のG1英1000ギニー(芝8F)で、1番人気を裏切り3着に敗退。それも、勝ったホームカミングクイーン(牝3、父ホーリーローマンエンペラー)に10馬身も離される完敗で生涯初黒星を喫した上で挑むのが、今週金曜日のオークスとなる。
血統的には、父が言わずもがなの欧州を代表する名種牡馬ガリレオで、牝系も3代母がローズオヴジェリコだから、ダービー馬ドクターデヴィアス、昨年の英オークス馬ダンシングレインらが近親にいる。すなわち、距離延長はまず問題なかろうという血統的デザインとなっているのだが、不安材料が全く無いわけではないのだ。
メイビーの母スモラはデインヒル産駒なのだが、現役時代の彼女は2歳7月にリングフィールドのメイドン(5F)でデビュー勝ち。続いて2戦目となったニューバリーのLRセントヒューズS(5F34y)も連勝と、鮮やかなスタートダッシュを決めたのだが、その後はと言うと、3歳秋まで10戦して10連敗。結局のところ12戦2勝という成績で現役を終えた、早熟のスプリンターだったのである。母の影響を色濃く受けていれば、成長力とスタミナの双方に大きな不安のある馬が、初めて8Fの距離に挑んだ3歳初戦の1000ギニーで、自身初の敗戦を喫したのだ。
これを、どう見るか?!
オッズを見る限りファンの多くは、伯楽A.オブライエンが敢えてここへぶつけてくる以上、3歳春を迎えての成長度にも、12Fに伸びる距離にも「不安なし」と見ているようだが、果たしてどうなるか?!
ブックメーカー各社が3.5倍から4.0倍のオッズを掲げているのが、今季初戦となったG1英1000ギニーで4着と健闘した後、5月16日にヨークで行われたG3ミュージドラS(芝10F88y)を制したザフーガ(牝3、父ダンシリ)である。母トゥウィーラサープ(その父サドラーズウェルズ)は、ロイヤルアスコットのG2リブルスデイルS(芝12F)2着馬で、距離延長は歓迎の馬だ。
ブックメーカー各社が5.5倍から7倍のオッズを掲げているのが、5月12日にリングフィールドで行われたLRオークストライアルS(AW12F)を含めて、2戦2勝の成績でオークスに挑むヴァウ(牝3、父モティヴェイター)だ。タタソールズ・オクトーバーのブック2で、6万ギニーというお買い得価格で購買された同馬は、05年の英ダービー馬モティヴェイターの3世代目の産駒の1頭だ。これまで父の現役時代を思い出させる産駒が出ていないモティヴェイターにとって、初めての大物となる可能性のある1頭である。
各社5.5倍から7.5倍のオッズを掲げているのが、メイビーと同厩のキスト(牝3、父ガリレオ)だ。昨年の英ダービー馬プルモワの妹というピカピカの血統背景に持つ同馬。2010年のタタソールズ・オクトーバーセールにて2番目の高値となる90万ギニーで購買され、早くから今年のクラシックへ向けたアンティポスト戦線で上位に顔を出していた馬が、今季初戦となった4月29日にナーヴァンで行われたLRサルサビルS(芝10F)を含めて2戦2勝の戦績でオークスに挑むのだから、未知の魅力に賭けたいと思うファンがたくさんいるのも道理である。
「4強」による混戦という図式のオークスに対し、アンティポスト戦線では「1強」が独走状態を築いているのが、牡馬によるダービーだ。
ブックメーカー各社が、軒並み2倍を切るオッズを掲げて大本命に推しているのは、言うまでも無くキャメロット(牡3、父モンジュー)である。
2010年のタタソールズ・オクトーバーセールにて52万5000ギニーでクールモアの代理人に購買された同馬は、入厩したその日から、多くの名馬を手掛けてきたA.オブライエンをして「特別な馬」と言わしめたというエピソードを持つ。
2歳7月14日に、レパーズタウンのメイドン(芝8F)でデビュー勝ち。その後休養を挟み、10月22日にドンカスターで行われたG1レイシングポストロフィー(芝8F)で、3か月振りにファンの前に姿を現したキャメロットは、強烈な末脚を繰り出してここも無事に通過。2戦2勝の成績で2歳シーズンを終え、欧州2歳馬ランキングでフランスのダビルシムと横並びで首位の座に就いている。
シーズンオフのアンティポストで、2000ギニー・ダービーのいずれも本命に推されていた同馬。5月5日の二千ギニーは、切れ味が武器のこの馬には不向きと思われた道悪となったが、これを難なく克服して優勝。ダービーも勝てば無敗での2冠制覇になるわけで、それだけでも既に歴史に残る快挙となるのだが、マスコミの気が早いのは英国も同様で、1970年のニジンスキー以来となる3冠達成がなるかどうかが早くも焦点となっている。今年のダービーは、手綱をとる弱冠19歳のジョセフ・オブライエンともども、キャメロットを見るダービーとなりそうだ。
過去10年のダービー馬のうち4頭が叩き台としている、本番との結び付きが最も強い前哨戦が、ヨーク競馬場を舞台としたG2ダンテS(芝10F88y)である。5月17日に行なわれた今年のダンテSで今季初登場し、勝利を収めたのが、ブックメーカー各社が5.0倍から6.0倍の2番人気に推しているボンファイア(牡3、父マンデュロ)だ。2007年の欧州チャンピオン・マンデュロの初年度産駒の1頭となる同馬は、タタソールズ・オクトーバーセールにて9万ギニーで購買され、英国を代表する共同馬主組織ハイクレア・サラブレッズの一員となっている。購買後、1つ年上の姉ジョヴィアリティが、G3ミュージドラS(10F88y)を制したから、結果として大変なバーゲンプライスだったと言えよう。昨年9月にソールズバリーのメイドン(8F)でデビューし、初戦勝ちを飾った後、次走はいきなりフランスのG1クリテリウムインターナショナル(芝1600m)に挑み、ここではフレンチフィフティーン(今年の2000ギニー2着馬)の3着に敗れて、2歳シーズンを終えていた。ダンテSのレース振りに、豊富なスタミナと渋太さが感じられだけに、消耗戦になれば更に浮上の可能性がありそうだ。
3番手グループを形成している3頭もまた、いずれも各地で行われた前哨戦の勝ち馬たちだ。
5月12日にリングフィールドで行われたG3ダービートライアルS(AW12F)を含めて、デビューから無敗の4連勝でここまで来ているのが、各社9倍から11倍のオッズを掲げているメインシーケンス(牡3、父アルデバラン)である。
5月11日にチェスターで行われたG3ディーS(芝10F75y)で、2着馬に11馬身差をつける派手な勝ち方を見せたのが、各社11倍から15倍のオッズを掲げているアストロロジー(牡3、父ガリレオ)だ。
更に、4月28日にサンダウンで行われたG3クラシックトライアルS(芝10F)を、馬場の荒れた内側を嫌って終始大外を廻るという、大胆きわまりない戦法で制し、デビューから2連勝を飾ったインペリアルモナーク(牡3、父ガリレオ)が、13倍から17倍のオッズとなっている。
英国オークス・ダービーの模様はいずれも、6月3日(日曜日)にグリーンチャンネルの競馬中継内で放送される他、JRAの競馬場でウインズでも放映予定となっているので、ぜひご注目いただきたい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。