アイルハヴアナザー、三冠達成なるか

2012年06月06日(水) 12:00

 G1ケンタッキーダービー(d10F)とG1プリークネスS(d9.5F)の二冠を制しているアイルハヴアナザー(牡3、父フラワーアレイ)が、三冠制覇に挑むG1ベルモントS(d12F)の発走が、現地6月9日(土曜日)、日本時間10日(日曜日)早朝に迫っている。

 5日(火曜日)の段階で、出走が想定されているのは11頭だ。

 デイリーレーシングフォーム(DRF)が1.6倍のオッズを掲げて1番人気に支持しているのは、言うまでもなくアイルハヴアナザーだ。プリークネスS翌日には早くもベルモントパークに移動。5月31日(木曜日)に、カラ馬がアイルアヴアナザー目がけて突進して来て、危うくぶつかりそうになるというアクシデントがあった以外は、順調に調整が積まれている。

 三冠達成への鍵と常々言われているのが、わずか5週の間に3冠全てを消化するというローテーションと、ベルモントSにおける12Fという距離だ。

 アイルハヴアナザーにとって、ベルモントSは通算8戦目、3歳になって5戦目の実戦となる。緩やかなローテーションではないが、決して使い込まれてきたわけでもなく、力は出し切れる臨戦態勢と見て良いと思う。

 アイルハヴアナザーの父は、サラトガにおけるダート10FのG1トラヴァーズSを制し、同じくダート10FのG1BCクラシックでも2着となっているフラワーアレイで、生産者のクラーク・ハーヴェイ氏が「距離のもつ仔を作りたい」との意図をもって配合を決めた種牡馬である。トップラインはミスタープロスペクターにつながる系統だが、北米血脈の中では距離に融通性のある父と言えよう。

 トップライン以外は、豊富なスタミナが散りばめられているのが、アイルハヴアナザーの配合表だ。フラワーアレイの祖母の父は、欧州生産界でスーパーサイヤーとして一時代を築いたサドラーズウェルズで、フラワーアレイの3代母の父は、凱旋門賞馬ヴェイグリーノーブルである。

 アイルハヴアナザーの母方にも、欧州12F路線の大物の名が複数見え隠れする。まず、母の父アーチは、クリスエスから英ダービー馬ロベルトに繋がるサイヤーラインだ。アイルハヴアナザーの祖母の父プレザントタップは、日本でジャパンC勝ち馬タップダンスシチーを輩出した種牡馬だし、その父プレザントコロニーの代表産駒は、欧州でキングジョージや愛ダービーを制したサンジョヴィである。更に、アイルハヴアナザーの3代母は、父方の祖父がニジンスキーで、母方の祖父がシーバードだ。

 総合的に見て、ベルモントS出走予定馬の中でも最右翼と言って良いスタミナを注入されているのがアイルハヴアナザーで、12Fという距離が問題になる馬ではなさそうだ。

 達成すれば、1978年のアファームド以来、34年振り史上12頭目の三冠馬となるアイルハヴアナザー。アファームド以降、79年のスペクタキュラービッド、81年のプレザントコロニー、87年のアリシバ、89年のサンデーサイレンス、97年のシルヴァーチャーム、98年のリアルクワイエット、99年のカリズマティック、02年のウォーエンブレム、03年のファニーサイド、04年のスマーティジョーンズ、08年のビッグブラウンと、実に11頭までがケンタッキーダービーとプリークネスの二冠を達成していながら、三冠目のベルモントSで敗れ去っているという事実は重い。だがそれでも、今年のアイルハヴアナザーは三冠への超至近距離にいると診てよさそうだ。

 DRFが6倍のオッズで2番人気に推しているのが、3着だったケンタッキーダービーから直行してくるデュラハン(牡3、父イーヴンザスコア)である。

 未勝利を脱出するのに5戦を要した馬だが、5戦目にして初勝利を挙げたのがG1ブリーダーズフューチュリティ(AW8.5F)だったという異色の経歴を持つ。3歳4月に、キーンランドのG1ブルーグラスS(AW9F)で2度目のG1制覇を果たしたが、良績がオールウェザーや芝に偏っていたため、ダート適性に疑問が付く状態で出走したのがケンタッキーダービーであった。

 そのダービーでダート適性を証明し、中4週という余裕のローテーションでここへ臨んでいるデュラハンは、確かにアイルハヴアナザーの前に立ちはだかる可能性のある馬と言えそうだ。

 オッズ7倍の3番人気が、これもケンタッキーダービーを使った後、プリークネスSはスキップしてベルモントSに向かってくるユニオンラッグス(牡3、父ディキシーユニオン)である。

 2歳時の戦績、4戦3勝。5.1/4馬身差で制したG1シャンパンS(d8F)を含め、デビューから楽勝続きの3連勝。単勝2.1倍という被った1番人気に推されたG1BCジュヴェナイル(d8.5F)で、ハンセンの頭差2着に敗れて連勝が止まったが、2歳終了時点ではダービー候補の筆頭と目されていた馬である。

 今季初戦のG2フォンテンオヴユースS(d8.5F)を勝った後、2戦目のG1フロリダダービー(d9F)でよもやの3着に敗退。いささか評価を落として臨んだケンタッキーダービーでも、道中で2度進路が狭くなる不運に見舞われて7着に敗退。

 ベルモントSはユニオンラッグスにとって、2歳時の評価が正当なものであったことを証明する、最後のチャンスとなる。

 オッズ9倍の4番人気と、別路線組の中では最も評価が高いのがペインター(牡、父オウサムアゲイン)だ。デビューが今年の2月18日までずれ込んだ馬だが、サンタアニタのメイドン(d5.5F)でデビュー勝ちを飾ると、次走はいきなりG1サンタアニタダービー(d9F)に挑み、アイルハヴアナザーの4着に健闘。続くG3ダービートライアルS(d8F)で2着となった後、前走5月19日にピムリコで行われた一般戦(d8.5F)で2勝目を挙げてベルモントS参戦を決めた馬だ。

 管理するのは西海岸の伯楽B・バファートだ。陣営には、ケンタッキーダービー、プリークネスSでいずれも2着だったボディマイスター(牡3、父エンパイアメーカー)がいるのだが、早い段階でボディマイスターのベルモントS不参戦を表明した師が、代わりに送り込んでくるのがペインターで、未知の魅力に溢れた馬と言えそうだ。

 誠に残念なことながら、ケンタッキーダービー、プリークネスS同様、ベルモントSも日本では、クローズドサーキットも含めて放送予定がない。34年振りの快挙が達成されても、これを広く日本の競馬ファンの皆様にお伝えする手段がないというのは、何とも歯がゆい状況である。ファンの皆様におかれましては、パソコンの小さな画面を通じてでも、レースの模様をフォローしていただきたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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