2012年06月20日(水) 12:00
北米競馬の祭典ケンタッキーダービーの出走馬決定方法が、来年から改訂されることになった。舞台となるチャーチルダウンズ競馬場が、14日(木曜日)に発表したものだ。
ケンタッキーダービーのフルゲートが20頭と定められたのは、レースが創設100年を迎えた1975年のことだった。20頭を越えるエントリーがあった場合の絞り込み方法は、「重賞競走における収得賞金額を規準とする」というルールが1986年に導入され、以来2012年まで27年にわたって、除外馬の決定はこのルールに従って行なわれてきた。
2013年から導入されるのは、「ポイントシステム」だ。2歳秋から3歳春の時期に行なわれる距離1マイル以上の36競走を、ケンタッキーダービーへ向けた前哨戦に指定し、レースごとにポイントを設定。合計ポイントの上位20頭に出走資格を与えようとするものである。
36競走は4つのカテゴリーに分類されており、カテゴリーごとに設定されたポイントに差異があるのが特徴だ。
まず、「プレップ・シーズン・レース」という名称でひと括りにされているのが、2歳秋から3歳の早い時期に行なわれる19競走だ。今年はサンタアニタでの開催となるG1ブリーダーズCジュヴェナイルや、ベルモントパークのG1シャンパンS、ハリウッドパークのG1キャッシュコールフューチュリティ、更に英国のニューマーケットを舞台とするG2ロイヤルロッジSなどがこのカテゴリーに含まれ、ここでは1着馬10点、2着馬4点、3着馬2点、4着馬1点のポイントが設定されている。
次に、3歳春の早い段階で施行される、ガルフストリームのG2フォンテンオヴユースS、フェアグラウンズのG2リズンスターSなど8競走が、「チャンピンシリーズ・ファーストレッグ」に指定され、ここでの上位4頭には、1着馬50点、2着馬20点、3着馬10点、4着馬5点のポイントが加算される。
更に、ケンタッキーダービー直前の重要プレップとなる、ガルフストリームのG1フロリダダービー、アケダクトのG1ウッドメモリアルS、メイダンのG2UAEダービーら7競走が、「チャンピンシリーズ・セカンドレッグ」として施行され、上位馬には1着馬100点、2着馬40点、3着馬20点、4着馬10点という大きなポイントが用意されている。
更に、ケンタッキーダービーの2週前に行なわれるキーンランドのG2レキシントンSと、前週にチャーチルダウンズのG3ダービートライアルSの2競走が、「ワイルドカード・レース」に指定され、1着馬20点、2着馬8点、3着馬4点、4着馬2点のポイントが設定されている。
チャーチルダウンズは、ケンタッキーダービーの前日に施行される3歳牝馬のG1ケンタッキーオークスにも同様のポイントシステムを設けることを発表したが、オークスの前哨戦で得たポイントはオークス出走権をかけた争いでのみ有効とし、ダービー出走権を巡るポイント争いでは加算されないことを決定。従って牝馬の場合は、前哨戦の段階で牡馬と対戦し必要なポイントを獲得しないと、ケンタッキーダービーには出走出来ないことになった。
チャーチルダウンズ社会長のボブ・エヴァンス氏によると、ポイントシステム導入には複数の目的があるという。
「1つは言うまでも無く、より充実した出走メンバーの確保です。また、ポイントという目に見える形での出走馬決定は、新しいファンにとってもわかりやすい。なおかつ、ケンタッキーダービーを頂点とした戦線を、2歳秋から3歳春まで大きな興味とともにフォローしていただけるというのも、ファンにとってはたまらない魅力となるはずです」。
チャーチルダウンズ社の広報担当役員ダレン・ロジャーズ氏によると、シミュレーションを積み重ねた結果、獲得ポイント40点前後が、20頭の出走枠に入るボーダーラインになりそうとのこと。すなわち、牝馬が出走しようとした場合、チャンピンシリーズ・ファーストレッグで勝利を収めるか、セカンドレッグで2着までに入る必要があるわけだ。
業界内からは、新システムに対する賛同と期待の声が沸き起こっている一方、レースの選択とカテゴリーごとのポイント設定に、現実とそぐわない部分があるのではないか、との指摘も聞こえている。
例えば、主催者は「シミュレーションを積み重ねた」と胸を張るが、新たなポイントシステムを過去のケンタッキーダービー出走馬に当てはめ試算してみると、なんと、1999年のカリズマティック、2002年のウォーエンブレム、2005年のジャコモ、2009年のマインザットバードと、過去15年で4頭ものケンタッキーダービー優勝馬が、カットラインの40ポイントに届いていなかったことが判明。中でも2002年のウォーエンブレムなどは、ルコントSとリズンスターSの2競走しか対象レースに出走しておらず、しかもいずれも5着以下だったため、獲得ポイント「ゼロ」であったことが発覚したのである。
そのウォーエンブレムを含め、ケンタッキーダービー優勝3回を誇るB・バファート調教師は、「新システムには欠陥がある」とコメント。「出走馬の選定方法を変えるよりも、むしろ、20頭という他の競走に比べて異常に多い出走頭数を、14頭程度まで減らすことを、今すぐやるべきことだと思う」と、新ルールに懐疑的な考えを表明している。
2013年のケンタッキーダービーへ向けて実施されるポイントシステムが、果たして、正しく機能するかどうか。アメリカの競馬関係者やファンならずとも、おおいに気になるところである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。