新たな鍛錬の場に意欲を燃やす

2012年06月28日(木) 12:00

「任重くして道遠し」、これを噛み砕いて家康が遺訓としたのが「人の一生は重き荷を負うて遠き道を行くがことし」だが、この後に「急ぐべからず」がつく。若い時分から心に残ってきた言葉だ。論語は家康のように読めば、処世訓として立派に生かせる。

 復活ではなく本領を発揮したと言いたいオルフェーヴルの勝利には、任重しの思いを強くした。陣営にとり人生最大の重圧だったろう。とにかく、ひとつ乗り越えられた。だが、これで大丈夫とは言い切れまい。人間がどう馬を信頼するか、それをオルフェーヴルがどう受け止めるか、賢い生き物は人の心を敏感に察知する。海外目指し、人生の鍛錬は続く。遠き道を行くが如しだ。

 つけ加えるなら、「先憂後楽」の生き方を思い起こしたい。これで大丈夫という思いが大切だが、目標が目標だから、とにかく人より先に憂え、人より後に楽しむ境地、こうでありたいし、これであれば間違いあるまい。

 真価は、最後の最後に問われるもの。

 少し重苦しくなったので、道なだらかで無理なく楽になることはないものかと考えてみた。「人の生けるや直(ちょく)」という言葉がある。正直一本で行動する。そうであれば無理せずやっていける。正直一本の道ほど安心して歩ける道はない。「先憂後楽」の生き方が、そこに見えてくる。そして、どんなに苦痛を感じることがあったとしても、それを苦と思うのではなく、出切るなら、好んでそれを求めるようにすべきだという、ひとすじの道が見えてくる。「好きこそ物の上手なれ」と言うではないか。そこからやがて、楽しむ心境が生まれてくる。

「急ぐべからず」そう言い聞かせつつ、ひとつ大きな進境に到達してほしいと、この秋に向けてみんなが祈っている。一度大きな任の重さを克服したのだから、今、新たな鍛錬の場に意欲を燃やすことが出切ると言い切りたい。きっと、いい風が吹いてくる。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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