2012年07月25日(水) 18:00
帯広市の北にある鹿追町は、人口約5600人の畑作と酪農を主体とした町だ。ここで毎年7月に開催されているのが「鹿追町競輓馬競技大会」という名の草競馬で、今年は7月22日(日)に行われた。
太陽光線の強いこの時期の十勝は、日高に比べるとかなり暑い土地柄だが、この日は湿度が低くカラッとした爽やかな天候に恵まれた。日なたでは紫外線が強烈でも、木陰に入ると涼しく過ごしやすく、爽やかである。
数えて51回目となるこの競輓馬競技大会は、1日で32レースが組まれている。“競輓馬”とはなかなか絶妙なネーミングで、その名の通り、ここではばんえいと周回コースを利用した速歩や繋駕、軽種による駈歩(つまり普通の平地競馬)までもがすべて行われる草競馬なのである。
ばんえいでは白熱した戦いが
会場には多くの人々が集う
開会式が午前8時半。第1レース発走は午前9時である。この頃には近隣の住民や出走馬関係者、草競馬ファン、観光客などが思い思いの場所に陣取っていて、人出は予想以上に多い。また地元の老人クラブが日よけのテント内にズラリと並び腰かけて観戦する姿も見られた。場内にはB級グルメ中心の露店がいくつも店を構え、焼き鳥や揚げ物などの煙と匂いが食欲をそそる。
さて、レースは1歳ばんば(斤量牝150キロ、牡170キロ)から始まった。
草競馬にはつきもののハプニングがこの日も目白押しであった。さっそく第2レースでは、第1障碍を過ぎたあたりで落馬(というか橇から騎手が落ちる)があり、しばらく馬に併走していた騎手が第2障碍のところで再度騎乗する珍事が起こった。
空橇で障害越えのパプニング
また、少なくとも2頭の放馬を目撃した。2歳か3歳かは分からないが、場内の歓声に思わず振り向くと、出走前の大型馬が周回コースの直線を私のいる4コーナー方向にまっしぐらに突進してきたのであった。
人も乗っていなければ橇も曳いていないので、完全な“空馬”状態だからスピードはかなり速い。勢いのついた馬はそのまま私の眼前を通り過ぎて行き、行き止まりでUターンするとまた人のいる方に向かって走り去った。興奮している大型馬はとても抑え切れるものではなく、ただ見ているしかなかった。
母馬の前を健気に仔馬が走る(右)
迫力のトロッターレース
レースは3頭立ての寂しいものもあれば6、7頭が出走するのもあるが、多くの馬は複数のレースに出走する。トロッターの場合には、午前に速歩、午後はソルキー(馬車)を引いて繋駕レースに出る。
出走馬は十勝だけあってばんえいの方が多く、ポニーから大型馬までバラエティに富んでいる。周回コースの速歩や駈歩では大して気にならなかったが、ばんえいの場合には橇を曳くことから、乾燥し切った馬場から上がる砂煙が甚だしく、まったく視界の利かない場面もしばしばであった。
何度もタンクローリーで散水していたものの、とても追いつかず終日人馬は埃まみれの中をレースに臨んでいた。
ところで、ばんえいレースには、帯広競馬場から“プロ”が大勢参加していた。聞いたことのある現役馬の名前があるかと思えば、見たことのある顔の調教師が手綱を握っていたりして、ここではプロとアマとの境界線が極めて曖昧なもののようだ。
ともあれ、草競馬はつくづく被写体の宝庫だと思う。機会があれば、ぜひ一度訪れることをお勧めしたい。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。