競馬にはレースの勝ち負け以外にもドラマがある。

すべてのホースマンの夢、ダービーの登録馬が発表された。
3回に渡る登録を経て、ここまで残った馬は22頭。
この中から実際にレースに出走できる馬は最大でも18頭だけだ。
そして、出走可能ラインの19番目にいるのがバッドボーイという馬。
出走優先順位の上位馬から1頭でも回避を決める馬が出れば、バッドボーイは夢の舞台へ出走が可能になる。
関係者は毎日ドキドキなのではないかと思う。
上位馬にとっても夢の舞台であることには変わらないのだから、そうは簡単にこの馬に順番が回ってくるものではないとは思うが。


2000年のダービー1番人気は、武豊がダービー3連覇の偉業を狙う皐月賞馬エアシャカール。
レースは直線中ほどで、エアシャカールが先頭に踊り出る。
今年もやっぱりユタカなのか。

そう思ったところへ、ダービーをまだ勝ったことがない兄弟子・河内洋のアグネスフライトが猛追する。
テレビからは
「河内の夢か 豊の意地か」
と、アナウンサーの声がゴール前の接戦を絶叫気味に伝える。

完全に馬体が並ぶのと、両馬がゴールを駆け抜けるのが同時に思えた。
写真判定の末、兄弟子の河内がハナだけ先着し、ついに悲願のダービージョッキーの座を勝ち獲った。

その3年後、河内は騎手を引退し、調教師へと転じる。
結局、騎手人生でダービーを勝てたのはこの一回だけであった。

2005年から厩舎を構えた河内なのだが、その管理馬から未だにダービーへの出走馬を送り出したことはない。
そして、現在、ボーダーライン上にいるバッドボーイは河内厩舎の管理馬なのだ。

「出走するだけでも大変な名誉」
そんな特別なレースが、「ダービー」というレースだ。

河内厩舎は開業9年目にしてダービーに管理馬を送り込むことが出来るだろうか。

奇しくも今年のダービーには、ファンへのお披露目のために、アグネスフライトが東京競馬場へやってくるという。

そんな視点から観るケイバも愉しいものだったりはしないだろうか。

言うまでもないことだが

最高の栄誉を賭けて戦うこのレースに、出走することなく勝った馬はいない。

出走が叶い、もしもバッドボーイが・・・。
ダービーに限らず、どんなレースでも本命馬だけがドラマの主役ではない。

それが競馬の愉しさでもある。