オルフェーヴル、フォワ賞勝利の立役者

2012年09月19日(水) 12:00

今回のこのコラムは、16日(日)にロンシャンで行われたフォワ賞の回顧をお届けしたいのだが、まずは、お詫びから記させていただきたい。

 先週の展望で、オルフェーヴルの相手となりそうな馬を3頭挙げたが、このうちリライアブルマン(牡4、父ダラカニ)とノーリスクアットオール(牡5、父マイリスク)の2頭が出走を回避してしまった。展望記事として、結果的にいささか的外れな内容になりましたことを、深くお詫び申し上げます。

 少頭数になるであろうとは予測していたものの、地元フランス調教馬がメアンドル(牡4、父スリックリー)1頭しか出てこないというのは、想定外でした。

 結果はみなさま、すでに御存知のようにオルフェーヴル(牡4、父ステイゴールド)がメアンドルに1馬身差をつけて優勝。この結果を受け、ブックメーカー各社がこぞって、凱旋門賞の前売りでオルフェーヴルのオッズ5.0倍〜5.5倍とし、昨年に続く連覇を狙うデインドリーム(牝4、父ロミタス)と横並びの1番人気に支持することになった。

 あくまでもここは前哨戦で、結果よりも内容を重視すべきレースではあったが、言うまでも無く勝つに越したことはなく、そして内容的にも、課題とされていた複数のポイントを確認出来ており、まずは申し分のない形で欧州初戦を終えることが出来たと思う。

 逃げ馬不在で、好スタートを切った帯同馬のアヴェンティーノ(牡8、父ジャングルポケット)がハナを切ったものの、1400mの通過が1分36秒34と、それって1600mの通過時計ではないのかと訝りたくなるような遅いラップが刻まれた。

 スミヨン騎乗のオルフェーヴルは、ソロっとゆっくりゲートを出たものの、かつて経験したことのない流れに辛抱が利かず、口を割ったり頭を上げたりとして、行きたがる意思を露わにした。

 ここでは、ある程度馬の行く気に任せる、あるいは、ポジション的には2番手となる、逃げたアヴェンティーノのすぐ後ろに馬を入れて落ち着かせるという選択肢もあったと思うが、ここが実戦では初コンビとなったスミヨン騎手はがっちりと手綱をホールド。力でねじ伏せるように、5頭立ての5番手に控えることになった。

 陣営からの指示は、出来ればメアンドルを目標とした競馬をして欲しいというもので、スミヨン騎手としてはこれを忠実に守ることになったわけだが、抑えよとの指示があれば大抵の馬なら抑え込んでしまえるのが、フランスにおけるスミヨン・クラスの騎手である。

 いったんは落ち着いたように見せながら、坂の頂上手前でもう一度、前の馬に突っかかっていく仕草を見せるなど、「らしさ」を存分に見せたオルフェーヴルをほぼ完全に屈服させたスミヨンは、さすがの手綱さばきであったと言えよう。この一戦をもってオルフェーヴルが、今度の鞍上は絶対に我儘を許してくれないと、いい意味で納得してくれたら、それだけで前哨戦を使った意味がありそうだ。

 3度跨った調教では気性的難しさの片鱗すら見せず、ともすれば「御しやすい馬」と侮りかけていたスミヨン騎手にとっても、オルヴェーフルが持つ「危うさ」の一端を経験出来たことは、大きな収穫だったはずだ。

 前哨戦を終えてもう1点、強く感じたのが、帯同馬アヴェンティーノが果たす役割の大きさだった。海外遠征における帯同馬の重要性は、今回の遠征に限らず常に指摘されてきたことだが、ここまで効果的に機能している帯同馬というのも、過去にあまり例がないかもしれない。

 この日、お昼すぎにロンシャン競馬場に到着したオルフェーヴルは、初めて訪れる場所ゆえ、かなりのイレコミを見せたそうだ。ところが、アヴェンティーノの後ろに付けて曳き運動をしているうちに、落ち着きを取り戻したというから、レース前の段階ですでにアヴェンティーノは、オルフェーヴルの勝利に大きく貢献していたのである。

 パドックでも、本馬場入場でも、オルフェーヴルのすぐ前にポジションをとって先導役を果たした後、前述したようにレースでも、馬群を引っ張る役目を担ったアヴェンティーノ。直線に向いて、オルフェーヴルが内ラチ沿いを追い込んでくると、ラチとの間に1頭分の隙間を作る配慮まで見せてくれた。

 そして、ゴール後も何を仕出かすかわからないオルフェーヴルを、馬の止め際からしっかりと先導。オルフェーヴルは無事に厩舎まで帰ることが出来たのだ。介添え役として、ほぼ完璧な仕事をしてくれたと言えよう。逆に言えば、オルフェーヴルのメンタルを考えると、凱旋門賞当日もアヴェンティーノの存在が不可欠になったと言えそうである。

 日本の競馬関係者にとって悲願となっている凱旋門賞制覇が、グッと現実味を帯びてきたことは間違いなくなく、あとは当日まで無事に調整が進むことを祈るばかりである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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