2012年09月19日(水) 18:00 6
9月半ばを過ぎた今頃は、本来ならば北海道では最も過ごしやすい季節となるはずだが、今年に限っては8月下旬以来連日の猛暑続きで、季節はずれの夏バテになりそうな高温が続いている。
とにかく暑い。ここ数日、日中は30度、夜間から早朝にかけてもほとんど熱帯夜で、寝苦しいことこの上ない。北海道ではクーラーを設置していない家が大半なので、この暑さは耐え難いレベルだ。いったいどうなってしまったのか? と会う人みんなが口にする。異常気象と言ってもいい。
さて、先週の土日は道東の別海町で草競馬が行われた。8月26日の中標津に続いて、中2週の間隔を開けてこの別海に出走するという馬が多い。正式名称は「別海町馬事競技大会」という。数えて36回目である。
道東の別海町は酪農の盛んな町で、人の数より牛の数の方が圧倒的に多いことでも知られる。この馬事競技大会は、町をあげて開催される「別海町産業祭」の協賛イベントとして行われており、15日(土)が乗用馬の部、翌16日(日)が輓曳の部に分かれ、2日間開催である。さすがに2日間もの滞在は無理だったので15日の乗用馬の部だけを見てきた。
会場は別海町農村広場という広大な敷地の一角に作られた1周1000mの競馬場で、内馬場に輓曳コース(200m)を有する。ここの輓曳コースはスターティングゲートがある。ラチも整備されており、内馬場の一角には二階建て6角形の本部がある。町が全面的にバックアップしているせいなのか、中標津と比較すると、設備に関してはこちらの方が数段優っている印象だ。
予定されているレース数は初日の乗用馬の部が午前と午後合わせて17レース。翌日の輓曳の部は21レースもある。計38レース。出走馬は中標津よりもやや多いようだ。
午前10時に第1レースが始まった。「トロッター2歳速歩」で3頭立て。中標津でも見かけた人が多く騎乗している。道東の草競馬に何度か通っていると、すぐに顔を覚えてしまうくらいに限られた愛好者によって続けられている印象だ。
浦河ポニー少年団も参加
迫力のトロッター繋駕無差別級ハンデ
レースは次々にスタートし、第2レース。「ポニーキャンター1000m」。8頭立て。浦河からポニー少年団の子供たちがここにも遠征しており、浦河6頭と地元馬2頭による対抗戦となった。これくらいの頭数が揃うとレースとしても面白くなる。また中標津ではなかったがここでは特定の乗馬クラブだけによるレースも組まれており、第6レースには「はまなす乗馬クラブ」による1000m速歩レースが、午後の第16レースには「北太平洋シーサイドライン乗馬クラブ」によるF1キャンター2000mがそれぞれ行われた。
この16レースには遠く東京や神奈川、福島などからも愛好者がやってきて騎乗しており、こういう形(馬を借りてレースに出る)でも草競馬が楽しめるのである。
ところで、今回もまたトロッターは午前に速歩レースに出走した後、午後にはソルキーを牽引して繋駕レースに出てくる。
これまで繋駕というと、ほぼ3頭~4頭立てのレースばかり見てきたが、今年の別海では、最終第17レース「トロッター繋駕無差別級ハンデ」競走に一挙9頭も出走してきて、とても迫力があった。
鮭の串焼き、露天も楽しみのひとつ
猛暑の中、カニの炭火焼き店も盛況
会場には数多くの露店が並び、野菜や肉、魚と地元産品のあらゆるものが売られている。蟹を炭火で焼いて売るお店もあれば、切り身の鮭の串焼きを売るお店もある。陶器店、洋服屋なども出張してきている。ただし今年は露店の数がやや減った印象だ。それにしても、冒頭でも書いたように、このところの北海道の暑さは明らかに異常なレベルで、ここ別海もよく晴れていた分、気温は急上昇してほとんど30度に達していた。多くの露店は火を使うので、テント内の温度はかなりのものになっていただろう。蟹を焼くお店の人は上半身裸であった。
この時期にこれだけ暑くなるとは予想していなかったはずで、露店で働く人々は揃って汗びっしょりになっていた。
その一方で、秋ものを大量に積んできた大阪のKさんは中標津でもこの別海でも店を出していたが「アカン、さっぱり売れん」とぼやくばかり。「こんだけ暑いとジャンバーなんか誰も要らんからねぇ」と諦め顔であった。
さて、遠く浦河からはるばる別海にも遠征していた清野寛一さんは、還暦を少し過ぎた年齢だが、今年で引退する予定らしく、7月の鹿追、8月末の中標津、そして今回の別海と道東で開催される草競馬にはすべて足を運び出走していた。
清野さんは繋駕専門で、別海には25年ぶりに来たという。「あの当時から見ると、やはり賑わいがちょっと足りないなぁ」と残念そうな口ぶりであった。出走人馬の数もさることながら、人出がだいぶ違うというのだ。25年前となるとまったく私には未知の話だが、やはり年々草競馬を取り巻く環境は厳しくなってきているのだろう。
とりわけトロッター繋駕に関しては、良くて現状維持で、ほぼ年配者から順に引退して行く道理だが、後継者が育っていなければやがて廃れる運命を辿る。中標津でも乗っていた三田牧男さんや野呂達雄さんもここで元気に騎乗していたが、この方たちはともに70代。野呂さんもまた「今年で引退」と公言しており、これからどんどん寂しくなるだろう。
ともあれ、こうした道東の草競馬は一見の価値がある。秋に北海道旅行を計画している競馬好きの方にはお勧めのポイントだ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。