大規模・オープンデーでファンとふれ合い

2012年09月26日(水) 12:00

 9月23日(日曜日)、イギリスのニューマーケットで、大規模な「オープンデー」が催された。

 現役競走馬を管理している厩舎が、1日だけファンに対して門戸を開放し、管理馬を見せてくれる「オープンデー」は、イギリスやアイルランドでは各所で少なからず催されているイベントだ。

 ただし御承知のように、日本の美浦や栗東のように、多数の調教師が競馬施行団体の管轄下にある敷地内に置かれた馬房を使って、馬を管理しているわけではないのがイギリスやアイルランドだから、それぞれの調教師さんが各々の裁量で個別に催すのが、通常のスタイルの「オープンデー」である。

 ところが、9月23日に開催されたのは、ニューマーケットに厩舎を構える39件もの厩舎が、互いに協同歩調をとる形で催されたもので、ニューマーケットを舞台としたものとしては14年振りとなる、規模の大きなイベントだった。

 旗振り役を務めたのは、ニューマーケット・ヒースの所有者であり管理者であるジョッキークラブだ。競馬サークル内外の、3つのチャリティー団体への基金供出を目的としたオープンデーの開催を企図したところ、バリーロード、フォードハムロード、スネイルウェルロードらに点在する厩舎の半ば以上が賛同。厩舎だけでなく、ニューマーケット競馬場やせり会社のタタソールズ社、競走馬診療所のロスデイル、ナショナルスタッド、さらにはハイストリートにある全英競馬博物館などが、全英各地から集まるファンのために、それぞれの敷地内にある駐車場を含めて施設を一般開放するなど、競馬サークル全体が一丸となって取り組むビッグイベントとなった。

 参加者は15ポンドの入場料(12歳以下は無料)を支払って、エリア内に入場。その際に渡されたリストバンドを着用していれば、エリア内のどの施設にも立ち入ることが許されるという仕組みだったから、ニューマーケットの街全体が、例えて言えばディズニーランドのような、アミューズメントパークになったようなものだった。

 イベントのスタートは朝9時30分。まず披露されたのは、有名なウォーレンヒルと呼ばれるヒースを使った調教で、ヘンリー・セシル、サイード・ビン・スルール、ジェレミー・ノシダ、ジョン・ゴスデンといったトップトレーナーたちの管理馬が、次々にキャンターを披露。ファンの前を駆け抜けた馬の中には、凱旋門賞の有力候補となっているジョン・ゴスデン厩舎のナサニエル(牡4)や、今年のG1アスコットゴールドC勝ち馬カラーヴィジョン(セン4)らも含まれていた。

 調教が終わると参加者たちは、それぞれのお目当ての厩舎に移動。例えばエド・ダンロップ厩舎では、これも凱旋門賞の有力候補となっているスノウフェアリー(牝5)が、10時30分と11時30分の2度にわたって、訪れたファンの前をパレード。マイケル・スタウト厩舎では、主戦騎手のライアン・ムーアが案内役を務めるなど、競馬ファンにとっては堪らない趣向が各所で用意をされていた。

 イベントには午後の部もあって、ニューマーケットのロウリーマイルコースで、ゴーカートを使ったレースが調教師チームと騎手チームの対抗戦として行われたり、プロによるスタントショーが行われたり。さらにここでは人気ナンバーワンのフランキー・デトーリ騎手がファンと交流するなど、夕方の5時までファンを飽きさせない催しの数々が展開された。

 これで「入場料」が15ポンドというのは、競馬ファンにとっては実に良心的で、価格6ポンドのプログラムが飛ぶような売れ行きを示したのも、当然のことだった。

 日本でも昨今は、ファンと関係者が直接触れ合えるイベントが、以前よりは多く催されるようにはなったが、ここまで大規模で、かつ、現役の名馬や名騎手との距離が近いイベントは、残念ながら実現したことはないと思う。

 防犯や防疫など、クリアしなければならない問題が多々あるとは思うが、例えば競馬の無い祝日に、美浦や栗東を全面開放する「オープンデー」を催す計画などを、真剣に検討しても良い時期に来ている気がする。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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