凱旋門賞、オルフェーヴルの勝機を読む!

2012年10月03日(水) 12:00

 いよいよ凱旋門賞の当該週を迎え、微妙なのが天候だ。パリ地区は雨が多く、ロンシャンの馬場は「重」と伝えられており、これ以上悪化するようなら回避する有力馬も出かねない状況となっている。

 天候とともにもう1つ、現時点で不確定なのが、「キャメロット・ファクター」だ。セントレジャーで思わぬ敗戦を喫した直後、キャメロットの凱旋門賞参戦は白紙とされ、ブックメーカー各社は前売りリストから同馬を外したが、その後、日を追うにつれて陣営から出走に前向きな発言が出始め、23日(日曜日)にオブライエン調教師が「今季もう1戦するとしたら、可能性が一番高いのは凱旋門賞」とコメント。これを受け、ブックメーカー各社は慌ててキャメロットを前売りリストに戻すという顛末があった。

 オブライエン師は最終的な出否を「当該週半ばに決める」としているが、道悪というのもキャメロットにとってはネガティヴなファクターで、現段階ではどちらに転ぶか、わからない状況だ。

 キャメロットが出てくれば、この馬自身が有力な優勝候補となりうるだけでなく、セントレジャーにおける敗因を「ペースメーカーを立てなかったこと」と言い切ったオブライエン師が、先導役を担う馬を送り込んでくることは間違いなく、つまりは、この馬が出るか出ないかで、レースの流れが変わる可能性が大きいのだ。

 ということで、ここでは、取り沙汰されている有力馬が全馬出て来る、との想定に立った予想を展開させていただくこととする。

 キャメロットが出てきて、おそらくはロビンフッド(牡4)あたりが務めるであろう、ペースメーカー役が出て来るのであれば、馬場は悪くとも、道中の流れは緩みの無いものとなるはずだ。そういう競走条件になった時、日本から参戦するオルフェーヴル(牡4)にとって最大の敵は、圧勝した昨年に続く凱旋門賞連覇を目指すデインドリームだろうと見ていたら、1日(月曜日)になってトンデモないニュースに接することになった。

 デインドリームが本拠地とするケルンの厩舎地区で、馬伝染性貧血症の陽性反応が出た馬が確認され、ケルンはもとよりドイツ国内のほぼ全域にわたって、馬の移動が禁止されることになったのだ。

 現状、伝染性貧血症の陽性反応が出たのは1頭のみで、デインドリームの入る馬房からは相当離れた場所にいる馬であることが確認されているし、デインドリーム自身の体調に問題は全くない。だが、今回の移動禁止措置がいつまで続くのかは不明で、現状は、デインドリームのフランスへの輸送は、不可能な状況にある。

 ここまで勝利した5つのG1が、いずれも牡馬を破ってのものという、まさに出色の実績を積み上げ、既にして近代競馬史に残る名牝としての地位を確立しているデインドリーム。パワーとスタミナと粘りに長けた、典型的な欧州型名馬のこの馬に、自分の勝ちパターンに持ち込まれることが、オルフェーヴルにとって最も避けたい局面と見ていただけに、同馬が不在となればオルフェーヴル優勝のチャンスは飛躍的に増すことになろう。

 だが、こういう形での出走回避が、多くのファンに釈然としない気持ちを抱かせることは間違いなく、かなうものなら一両日中にも、移動禁止措置が解けることを期待したいと思う。

 もちろん、デインドリームだけがオルフェーヴルにとっての強敵ではない。例えば、セントレジャーで生涯初の敗戦を喫し、すっかり株を下げた感はあるものの、出走してくれば依然として警戒が必要なのが、キャメロットだろう。

 管理調教師が指摘した、ペースペーカーを仕立てなかったことが、セントレジャーにおける唯一無二の敗因であったとは思わぬが、この馬の能力と適性に関する陣営の判断に微妙な誤りがあったことは間違いなく、そういう意味では陣営に戦略上のミスがあったことは明らかだった。

 さらに、出遅れという思わぬ躓きで始まったレースの過程において、その多くが許容の範囲内であったとしても、騎乗者にいくつかの局面で判断ミスがあったことも確かで、勝てるレースを落としたとも言えるし、逆に言えば敗れるべくして敗れたレースであったとも言えそうだ。

 セントレジャーから凱旋門賞という理想とは言い難い臨戦態勢だし、最大の特長である瞬発力が活きる馬場状態にもなりそうにないが、それでも、これだけ能力が高い馬が、古馬より3.5キロ軽い斤量で出られるとなると、大勢を覆す可能性がおおいにあると見る。

 なお、キャメロットの主戦騎手ジョゼフ・オブライエンは、56キロでは騎乗出来ないため、キャメロットが出走した場合は、別の騎手が手綱をとることになる模様だ。

 重馬場の予報に接して、現在の馬場状態ならば挑む価値ありと、ポジティヴな反応を示したのが、シームーンを管理するマイケル・スタウト調教師だ。

 ここまでのベストパフォーマンスはセントニコラスアビーの2着となった昨年のG1BCターフで、G1勝ちの実績はないシームーン。前哨戦のG2グレートヴォルティジュールSを制して1番人気で臨んだ昨年のセントレジャーが3着。同じく前哨戦のG2ハードウィックSを制して1番人気で臨んだ今年7月のG1キングジョージが5着と、本番での勝負弱さが定着しつつある馬である。

 能力的に足りないようにも思うが、マイケル・スタウトの管理馬で、1番人気で5着に敗れたキングジョージからぶっつけで本番というのは、2010年の凱旋門賞勝ち馬ワークフォースと全く同パターンなのだ。名伯楽マイケル・スタウトが、虎視眈々とここを目標にしてきたのだとしたら、不気味な雰囲気の漂う1頭である。

 さて、肝心のオルフェーヴルだが、前哨戦のフォワ賞を制した後も、順調に調整が進められているとの報告が入っている。極端な道悪にならない限りどんな馬場にも対応でき、展開にも注文が付かないのがこの馬で、総合力という点において優勝への最短距離にいるのはオルフェーヴルであろうと思う。

 残るポイントは、枠順だ。過去10年の凱旋門賞で連対した20頭のうち、16頭までが9番枠より内からスタートしているだけに、外枠を引くのは何としても避けたいところだ。

 10月7日が、日本人にとって歓喜の日となることを、切に望みたいと思う。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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