ゴールドシップに流れる快速馬の血

2012年10月25日(木) 12:00

 人の上手な育て方に関連して、「その長ずるところを貴(たっと)び、その短なるところを忘る」という言葉がある。三国志に出てくる呉の孫権が語ったもので、この英傑は部下を使うときの心構えとして、短所には目をつぶり長所を発揮できるように仕向けたと記されている。

 たしかに、人は長所をほめられたほうが、やる気が出てくる。人の上に立つ者に求められるものかもしれない。

 菊花賞のゴールドシップの戦い方を見ていて、内田博幸騎手がどれほどパートナーを信じているかと、この言葉が頭に浮かんだ。道中は後方から2番手。3000mを戦うにしては、2000mの皐月賞と同じような構え方ではないか。

 しかし、これでいいのだと言わんばかりに人馬一体の姿なのだ。しかも、向正面に入ると、そこから坂の上りを動いて少しずつポジションを上げていく。長丁場を早めにスパートするという戦い方。これは、よほどの自信がなければできない芸当だ。

 直線で止まってしまうという心配はせず、スタミナがあってバテないという長所を発揮させるには、これがいいのだとの思い。これは、手綱を介してゴールドシップにも伝わる。

 この二冠馬の個性は、体力、持久力から生み出されているが、この長所を貴ぶからこそであり、前半からついていけないというもうひとつの個性は、それはそれとして把握はするが、決して矯正はしないからこそ、能力をここまで伸ばせたのだ。

 ここでまたまた述べたくなるが、その血統で、ステイゴールド産駒の成長力に加え、母父メジロマックイーンのこと。現在活躍する世界中の芦毛馬のルーツをたどると、ほとんどがアイルランド産のザテトラークにたどりつく。この希代のスピード馬にマックイーンはよく似ていたと聞いたことがある。8代前の先祖のよみがえりが母父なら、2代あとのゴールドシップの芦毛も珍重できる。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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