2012年10月31日(水) 12:00
トレイルブレイザー(牡5、父ゼンノロブロイ)が出走を予定するG1ブリーダーズCターフ(芝12F、サンタアニタ)の発走が、3日(土)に迫っている。
意外にも、日本調教馬のブリーダーズCターフ挑戦はこれが初めてのことになる。日本の日程に照らし合わせると、天皇賞・秋と同週か天皇賞・秋の翌週で、ジャパンCとも近いことから、トップホースが日本を留守にしづらいという側面はあろうが、日本におけるこの路線の水準と高さ層の厚さを考えれば、これをきっかけに今後は、毎年とはいかないまでも、何年かに一度は参戦する馬が出てくる可能性がありそうだ。
ブリーダーズCの他のカードには、これまで7頭の日本調教馬が8回参戦しているが、残念ながら2010年のBCフィリー&メアターフにおけるレッドディザイアの4着を最高着順として、それ以外の7回はいずれも着外に終わっている。
もっとも、ブリーダーズCの芝のカードに芝のトップホースが参戦したのは、レッドディザイアのケース一例のみ。2005年のG1アメリカンオークス(芝10F)をシーザリオが圧勝していることを考えると、これまでのブリーダーズCにおける日本馬の不振を、トレイルブレイザーにとっての悲観材料と捉えることはないと思う。
今年のブリーダーズCターフは12頭立てとなった。第1次登録の段階で登録のあった14頭のうち、管理するN.ドライスデール師が「最終追い切りの動きが不満」としたバーボンベイ(セン6、父スライゴベイ)が回避。
他のレースとクロスエントリーをしていた馬の中で、ターフを第2希望としていた馬が3頭いたが、このうちリトルマイク(セン5、父スパニッシュステップス)とデュラハン(牡3、父イーヴンザスコア)がターフに廻ってきた結果、12頭立てとなったものだ。
まず全体を見て思うのは、先に行きたい馬が揃ったな、ということ。地元の前哨戦G2ジョンヘンリーターフCS(芝10F)で、大逃げを打って勝利したスリムシェイディー(セン4、父ヴァルロワイヤル)。
そのジョンヘンリーターフCSでは、前半3番手、レース途中から2番手の競馬をしたターボコンプレッサー(牡4、父ヘイローズイメージ)も、重賞初制覇となった7月のG1ユナイテッドネイションS(芝11F、モンマスパーク)は逃げ切りだった。
欧州から遠征するシャレータ(牝4、父シンダー)もまた、ラビットが居ないレースでは逃げる競馬をしている馬だし、G1・3連勝中でおそらくは当日1番人気に推されるであとうポイントオヴエントリー(牡4、父ダイナフォーマー)も、先行して早めに抜け出す馬である。彼らに加えて、マイルを第1希望にしていながら第2希望のターフに廻って来たリトルマイクもまた、8月のG1アーリントンミリオン(芝10F)を逃げ切っている馬なのだ。
先行馬の数が多いことが、すなわちハイペースを意味するわけではないが、スリムシェイディーあたりは溜め逃げするタイプではないだけに、まず十中八九、レースは速い流れ で展開するはずだ。
トレイルブレイザーは大外の12番枠を引いたが、自身が先に行きたい馬ではなく、先行争いを「高見の見物」することが出来る外枠は、さほど大きな不利ではないと見る。ましてや鞍上はこのコースを良く知る武豊騎手だけに、うまく捌いてくれるはずだ。
能力と適性を考えると、トレイルブレイザーの相手になるのは、ポイントヴエントリー、セントニコラスアビー(牡5、父モンジュー)、シャレータの3頭だと思う。
芝12F路線のカテゴリーにおいて、欧米の間にある水準の格差は非常に大きく、本来ならば北米調教馬は全部消したいところだが、近走の実績を見ると現在の北米におけるこの路線では頭2つぐらい抜けている印象があるポイントオヴエントリーだけは、無視しがたい存在だ。
モンマスパークが舞台だった07年に、凱旋門賞馬ディラントーマスらを返り討ちにしたイングリッシュチャネルの激走を、再現する可能性がゼロではないと見る。ましてや今年は、欧州から最も遠く、欧州との気候の差が激しいサンタアニタが舞台だけに、マークは外せない馬と言えよう。
昨年に続く連覇を狙うセントニコラスアビー。G1・4勝の実績は3頭の欧州勢の中でも最上位で、乾いた馬場の左回りコースは、この馬が存分に本領を発揮出来る舞台である。芝の質で言うなら、今年のサンタアニタよりは昨年のチャーチルダウンズの方が適性が高かたように思うが、レコード決着となった9月のG1愛チャンピンSの内容(2馬身差の3着)を見ると、サンタアニタの馬場もこなす可能性が高い。一方、いささか気掛かりなのが、3月のドバイから使い詰めのローテーションで、シーズン末の疲労は考慮する必要がありそうだ。
アメリカ向きの先行力があって、乾いた馬場にも適性があるのがシャレータだ。8月のG1ヨークシャーオークス、9月のG1ヴェルメイユ賞と連勝した競馬振りは、4歳後半を迎えて馬が完成したことを窺わせるもので、牝馬限定戦のフィリー&メアには登録すらせず、ここ1本に照準を絞ってきた陣営の強気も「買い」の材料だ。激しい先行争いに巻き込まれる可能性があるのが懸念材料だが、総合的に見て、トレイルブレイザーにとって最大の敵はシャレータであろうと見る。
前哨戦として使われたG2アロヨセコマイル(芝8F)の内容がすこぶる良かったのがトレイルブレイザーだ。1800mより短い距離を走ったことのなかった馬が、4か月半の休み明けで、北米芝マイル路線のトップホースたちと互角の競馬をしたのである。ここは本分の12Fに戻ること、体調面でひと叩きされた上積みがあること、を考えると、楽勝する可能性すらあると見ている。
レースの模様はグリーンチャンネルで生中継されるので、皆様、歴史的瞬間をぜひお見逃しなく!
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。