エイシンフラッシュ「忍」でつかんだ復権の道

2012年11月01日(木) 12:00

 2年5か月、実に長いトンネルだった。一度は世代の頂点に立ったものが味わい続けた12回の敗戦、それがどんなものであったか。

 窮地に立たされたのは、ダービー馬エイシンフラッシュのスタッフ。まさに「百忍を堅くして以て成るを図るべし」だった。復活という難関にさしかかったときは、ひたすら耐え忍ぶしかない。とにかく踏ん張りどころなのである。

 そして、見つめる先にある志、なんとしても貫徹しなければならない。この思いが満ちて大きくふくらんだときにつかんだタイトルには、計り知れないものがある。ダービー馬の復権、この意味は大きい。

 立役者、騎手デムーロの心境はどんなであったか。古馬の意地を見せたあの一気の末脚だったが、そこまでの人馬は、戦い方で言えば「静」。スタートを決めると中団で折り合い、内ラチ沿いに、じっと動かず忍の上に忍を重ね「百忍」の態。じっとしていたら、その内がぽっかり空いて、その先を見定めたところで一気にラストスパート。武田信玄の「風林火山」ではないが、「其の疾きこと風の如く」だった。

「静」から「動」に転じる戦い方がそこに見られたのだ。「動かざること山の如し」から風のように疾くなのだが、じっと機会を待つ「忍」があったからこその戦い方であった。さらに言えば、動いてはならないときの軽挙妄動は戒めなければならないという示唆でもある。

 もともと力のある立場でありながら、これだけのことが出来たのは、それなりの覚悟があったからで、先人の訓が競馬の中にも十分に生きているという発見であり、再認識させられる思いがした。

 もちろん、これはひとつの戦い方であり心構えであって、必勝の極意は他にもある。ただ、どれだけ柔軟に対処するかという心の持ち方があって、一度こうと決めたら「忍」の心で、「静」から「動」に転じる時を逃さないというのも、競馬にはあるのだ。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

新着コラム

コラムを探す