今年も悲喜こもごも、第4回ジョッキーベイビーズ(2)

2012年11月14日(水) 18:00

 いよいよ当日になった。朝8時半に集合した8人が騎乗馬に跨り、練習を開始したのは午前9時過ぎである。まだ勝負服には着替えず、私服での騎乗だったが、どの顔にも本番を控えた硬さが漂う。

当日も朝から練習

当日も朝から練習

岡部幸雄氏も激励

岡部幸雄氏も激励

 右回りと左回りで常歩から軽速歩、駈歩までを一通り行なった。前日の“乗り替わり”のおかげで、最年少の佐藤翔馬君も何とか他の7人とともに栗姫を操っている。この佐藤君には、前日からテレビ局の取材チームが密着しており、練習が終わるとさっそくテレビカメラを向けられていた。

 その頃、乗馬センターに岡部幸雄さんが来場した。第1回より岡部さんは審査委員長を務めており、今回も8人の練習を一通り見学した後、一同を前に「楽しんで乗って下さい。そして君たちのために一生懸命走ってくれる馬たちに感謝する気持ちを忘れないで」とエールを送った。

 午前10時からはしばし休憩の時間である。この間に8人は家族や応援団として駆けつけた人達と談笑したり、勝負服に着替えたりする。

 最年少の佐藤君の元にも、川崎からお父さんがやってきた。佐藤君の父は現役の騎手(川崎所属)だが、この日、主催者の配慮で、JBの前後だけ東京競馬場を訪れることが実現したという。川崎競馬はこの日開催日で、本来ならば許されないことだが、往復をタクシー移動する条件で特例が認められたらしい。

 勝負服を身にまとった8人がまた騎乗馬に跨り、最後の練習を開始したのは11時を回った頃のこと。これでレースが終わるまで馬を降りることはない。

 乗馬センターにサザエさんがやってきた。今年の誘導馬はサザエさんである。11時20分。スタンド方向から歓声が聞こえてきた。JBの前に行われる第4レースが始まったのだ。いよいよ本番間近で、おそらく8人の緊張感はピークに達していたことであろう。

 11時40分。ターフビジョンがJB発走を告知し始めた。まず第1回の優勝者である木村拓己君が競馬学校騎手課程32期生としてこのほど難関を突破したことが紹介された。そして、8人が枠順通りに1人ずつ大きく映し出された。

 残り200mのハロン棒付近まで外ラチ沿いを進んできた8人が、スタート位置まで戻って行く。

 11時50分。昨年の第3回JB優勝者の石井李佳さん(東京)がスターター台上から旗を振るとGIファンファーレがスタンドに鳴り響いた。いよいよカウントダウンが始まった。4人ずつが後方で輪乗りして待機し、5、4、3、2、1とビジョンにも数字が大きく表示される。

 0になったと同時に8人がほぼ揃ってスタートした。外側から8番小峯大哉君と中ほどを進んだ2番大池澪奈さんがわずかにリードするものの、すぐに4番青木一馬君と6番小林勝太君が並びかける。残り100mを切ったあたりで大池さんのオオタニハヤテの脚色が鈍り始め、青木君と小林君の激しい争いになった。

 ややリードしていた青木君を残りわずかのところで小林君がクビ差だけ差し切ったところがゴールであった。3着には終始低い姿勢で追った大池さんが入った。4着に木村和士君、5着に小峯大哉君という着順で、今年は最後尾までそれほど離れておらず、レースとしてはよくまとまっていた印象だ。

声援に応える小林君

声援に応える小林君

レース後みんなで記念撮影

レース後みんなで記念撮影

 表彰式では長野代表として初めて優勝した小林君に場内から盛んに声援が飛んでいた。仄聞するところではバスを仕立てて長野より大応援団が駆けつけていたという。表彰式では優勝した小林君にトロフィーが贈られ、勝利騎手インタビューが行なわれた。また岡部さんより最年少の佐藤君に敢闘賞が授与された。

 地下馬道を戻った8人は検量室横の取材スペースで多くの報道陣の取材を受けた。

 木村君は「「自分なりにはいい競馬ができたと思います。将来は騎手になってここに戻って来たいです」と語り、大池さんは「馬が気持ちよく走れるようにと考え乗りました。練習の時と同じように乗れて良いレースができました」とコメントした。

 丹野愛依さんは「鐙が外れてしまって思い通りに乗りませんでした。来年またチャレンジしたいです」とやや悔いの残る表情。青木一馬君は「結果は残念だったけど、自分なりの競馬ができたと思います。レースだけに集中して頭が真っ白でした。コリスはよく頑張ってくれたと思います」とコメント。

 佐藤君は「敢闘賞を貰えてうれしいです。友達(小林君)が優勝して良かったです。今度こそは絶対に優勝したいです」とリベンジを誓った。

 小林君は「初めての東京で勝てて本当にうれしいです。ぶれないでまっすぐに走れました。ユキノヒビキはスタート位置に来るとテンションが上がり、体勢を低くしてスタートできました。ハロン棒を過ぎてからまた馬が伸びてくれた」と冷静に振り返った。

 松若流星君は「悔しいです。スタートは良かったんですが、途中があまりうまく行きませんでした。直線が長く感じました。小林君にはおめでというと言いたいです」と話し、
小峯君は「楽しめました。良かったです。スタートは良かったのに緊張してあまり追えませんでした。東京競馬場はすごい雰囲気で感動しました。ゴールした時にはうれしかったです」と言った。

 レースを無事に終えた8人は、昼食後、午後2時よりスタンド最上階のゴンドラにて記念のゼッケンを渡され、その後、昨年に続いてアルゼンチン駐日大使ラウル・デジャン氏ご夫妻よりお茶会へのご招待を受けた。

 大使ご夫妻は去る9月22日に世田谷の馬事公苑にて開催された関東地区予選にも来場され、予選から熱心に観戦されていたのを思い出す。昨年のJB終了後もそうだったが、ご夫妻の心温まる歓待には大変驚かされたのであった。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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