2つあるソレミアの不安点とは/ジャパンC外国馬分析

2012年11月21日(水) 12:00

 いよいよ第32回ジャパンCの発走が今週の日曜日に迫った。今回のコラムは5頭の外国調教馬について解説したい。

 この路線のワールドランキング上位馬では、G1キングジョージ(芝12F)鼻差2着のナサニエル(牡4、父ガリレオ)が、頑固なまでに日本遠征を拒むジョン・ゴスデン調教師の管理馬で、ハナから来日の可能性がなく、2年連続の来日が予定されていたキングジョージ勝ち馬デインドリーム(牝4、父ロミタス)が、本拠地ケルン競馬場で伝染病が発生し移動禁止措置がとられて来日が不可能に。本来なら、左回りの良馬場を最も得意としているG1・4勝馬セントニコラスアビー(牡5、父モンジュー)に来て欲しいところだったが、これも日本は優先度の低いエイダン・オブライエンの管理馬でアウト。今年はエリザベス女王杯ではなくジャパンCに照準を合わせると言われていたスノウフェアリー(牝5、父インティカブ)までもが故障発生と、「不運」と「巡り合わせの悪さ」におおいに泣かされることになった。そうした状況を鑑みれば、凱旋門賞馬を含めて5頭という今回の顔触れは、決して悪いものではなく、世界的にも注目を集める一戦となっている。

 格で言えば、G1凱旋門賞(芝2400m)を制したソレミア(牝4、父ポリグローテ)が5頭の中では抜けた存在だが、日本の競馬への適性という点でいずれも高い水準にありそうなのが、残る4頭だ。

 オッズ42倍の12番人気で制したソレミアの凱旋門賞を、一部からはフロック視する声も聞こえているが、一度は独走態勢を築きかけたオルフェーヴル(牡4、父ステイゴールド)を、諦めずに追撃したのはこの馬1頭だけで、弱い馬に出来る芸当ではない。3着以下が7馬身以上離れたことを見ても、凱旋門賞ではこの馬とオルフェーヴルの2頭が図抜けていたことは明らかである。

 3歳春のクラシックには乗れず、3歳9月にサンクルーで3歳牝馬限定の準重賞ジュベール(芝2400m)を制覇。次走、重賞初挑戦となったG2コンセイユドパリ賞(芝2400m)2着と、上昇へのきっかけ掴んで3歳シーズンを終えている。

 今季初戦のロンシャンの準重賞(芝2400m)を制した後、G3エドヴィル賞(芝2400m)2着をはさんで、今年5月に左回りのサンクルーを舞台としたG2コリーダ賞(芝2100m)で重賞初制覇を達成。ドーヴィルのG2ポモーヌ賞(芝2500m)では4着に敗れたものの、G1初挑戦となった9月のG1ヴェルメイユ賞(芝2400m)でシャレータ(牝4、父シンダー)から2.1/4馬身差の3着に好走し、G1凱旋門賞(芝2400m)制覇に結び付けた。4歳になった今シーズンを通じて、メキメキ力を付けてきた印象がある。

 不安な点は2つ。1つは、これまではフランス国内でしか走ったことがなく、ヨーロッパ圏内への国外遠征の経験もないこと。来日後の馬の気配には、充分に注意する必要がある。

 もう1つは、日本の高速馬場への対応だ。日本の皆様もよく御存知のように、凱旋門賞当日のロンシャンは不良馬場で、勝ち時計は2分37秒68。重賞初制覇となったコリーダ賞も渋り気味の馬場で、勝ち時計は2100mで2分11秒74。馬場表記で言うと、これまで走った中では一番良かったのが Goodで、重賞初挑戦となった昨秋のコンセイユドパリ賞がそうだったが、ソレミアに首差先着したヴァダマーの勝ち時計が2400mで2分32秒34も掛かっている、

 パンパン馬場を走ったことがなく、走ってみたら適性が高かったという可能性がなきにしもあらずだが、良馬場なら遅くても2分25秒台の決着となる競馬に、対応するのは難しいと診る。

 格で言えば、ソレミアに次ぐ2番手に挙げたいのが、スノウフェアリーと同じ英国ニューマーケットのエド・ダンロップ調教師が管理するレッドカドー(騸6、父カドージェネルー)だ。3〜4歳時はハンディキャップ級でウロウロしていた馬だが、5歳5月にハミルトンの準重賞ブレーヴハートH(芝12F17y)を制し浮上のきっかけを掴み、5歳6月にG3カラC(芝14F)で重賞初挑戦初制覇を達成。更に5歳9月にG1愛セントレジャー(芝14F)で3着に健闘と、ゆっくりではあったが着実にキャリアアップしてきた馬である。

 次走、オールトラリアのG1メルボルンC(芝3200m)に向かった時には、いささか無謀な挑戦にも見え、なおかつ現地では前哨戦を使わなかったためオッズ31倍の9番人気という低評価だったが、デュナデンと大接戦と演じての鼻差の2着に好走し、世界をあっと言わせることになった。続くG1香港ヴァーズ(芝2400m)でも1馬身半差の3着に来ているから、馬の力がそういう水準まで上がってきたことは間違いなさそうだ。遠征への適応力があることも言うまでもなく、起伏の少ないコースを得意としていることも明らかだ。

 今季はここまで6戦し、英国の中ではフラットなことで知られるヨークを舞台としたG2ヨークシャーC(芝14F)に優勝。更に、Good to Firmという硬い馬場コンディションとなったエプソムのG1コロネーションC(芝12F10y)で、左回りの良馬場を最も得意としているG1・4勝馬セントニコラスアビー(牡5)の2着に好走している。

 4か月近い休み明けだった前走のメルボルンCは8着に敗れたが、ひと叩きされたこここそが狙い目ともとれるローテーションとなっている。

 昨年秋まではイタリアに在籍していたのが、ジャッカルベリー(牡6、父ストーミングホーム)だ。3歳時から重賞戦線に顔を出し、4歳6月にG1ミラノ大賞(芝2400m)を制するなど、イタリア芝中距離路線のトップホースとして活躍した。英国ニューマーケットのマルコ・ボッティ厩舎に移籍した今季、ここまで6戦しているが、英国で走ったのは1度だけ。春にはドバイで2戦し、G1ドバイシーマクラシック(芝2400m)でシリュスドゼーグルの3着に好走。夏にはアメリカに行き、弱敵相手ながら特別戦のアーリントンセントレジャー(芝13F110y)できちっと勝利を収め、そして秋にはオーストラリアに向かって、G1メルボルンS(芝3200m)が3着と、世界の大舞台でしっかりと見せ場を作ってきている。

 旅慣れていることは一目瞭然で、環境の変化に対する適応力は抜群のものがありそうだ。4歳時のG1ミラノ大賞制覇や今季のアーリントンセントレジャー制覇、更には今季のシーマクラシック3着、メルボルンC3着など、目立った実績を残しているレースでは、いずれも馬場が Good。パンパン馬場ではなかったが、乾いた状態で良績を挙げており、府中の馬場もこなせると診て良さそうだ。

 シーマクラシックの時が10頭立ての9番人気で、メルボルンCの時が24頭立ての20番人気と、馬券的にはほとんど無視された状態で好走しており、ジャパンCでも全くのノーマークにすることには少々の躊躇いを感じる馬である。

 英国ニューマーケットのロジャー・ヴァリアン調教師が管理するスリプトラ(牡6、父オアシスドリーム)。2歳シーズンから重賞戦線で活躍。6歳となった今季まで、5シーズンにわたって大きな故障をすることなく駆け続けているタフな馬である。

 今年7月、英国の競馬場の中ではフラットで芝のカットが短く、日本の馬場と近いと言われるヨーク競馬場を舞台に、Good to Firmという硬い馬場コンディションで行われたG2ヨークS(芝10F88y)で、自身4度目の重賞制覇を果たしているように、硬い馬場は大好きで、府中の馬場に対する適性は高そうだ。

 G1勝ちは手にしていないものの、4歳時にはサンダウンのG1エクリプスS(芝10F7y)でトゥワイスオーヴァーに半馬身差の2着、5歳時にはロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)でリワイルディングの3着と、超一線級を相手にしての好走実績がある。

 トルコや香港への遠征経験があり、長距離輸送に対する不安もなさそうだ。

 前走(8月18日のG1インターナショナルS)から間隔が開いているが、過去5度のシーズン初戦の成績を見ると、3勝、2着1回と好走しており、フレッシュな状態でこそ力が出せる、鉄砲駆けの利くタイプと診て良さそうである。

 レッドカドー同様、ゆっくりとした成長曲線を描きつつ、5歳となった今季に本格化したのが、アルカセットでJC優勝実績があるルーカ・クマーニ調教師が送り込んで来たマウントアトス(騸5、父モンジュー)だ。

 2〜3歳時はジョン・ヒルズ厩舎に所属し、10戦してハンデ戦に3勝。この段階でそれまで所有していた馬主が見切りをつけたが、秋にニューマーケットで開催されたタタソールズの現役馬セールに登場。19万ギニー(当時のレートで約2560万円)で現在の馬主に購買されている。19万ギニーというのは、この馬の実績を考えると相場よりもかなり高額で、複数の関係者の目に留まる何らかの長所があったのであろう。アイルランドのデヴィッド・ウォッチマン厩舎に転厩した4歳時は、6戦してダンドークのハンデ戦(AW12F)に1勝。8月にレパーズタウンのG3バリーローンS(芝12F)で初めて重賞に挑み、勝ち馬から3馬身半差の4着となっているが、実はこれも5頭立ての4着で、まだまだ素質の萌芽とは程遠い状態だった。

 これが一変したのが、英国のルーカ・クマーニ厩舎に移籍して迎えた今シーズンだ。初戦となったニューマーケットのハンデ戦(芝14F、馬場状態 Good to Firm)を快勝した後、ヨークの準重賞シルヴァーC(芝14F)を4馬身差で制して連勝。次走、ニューバリーのG3ジェフリーフリアS(13F61y、馬場状態 Good to Firm)も、G1セントレジャー2着などの実績を誇るブラウンパンサーに3.1/4馬身という決定的な差を付けて優勝。3連勝で重賞初制覇を果たした。

 前走、豪州に遠征した前走G1メルボルンC(芝3200m)は、2番人気に推されたが、不向きなスローペースにはまった上に、道中2度も他馬と接触する不利があって、5着と今季の初黒星を喫している。

 今年になって急激に強くなっているところがおおいに魅力的な馬で、確かな末脚を持っている点も府中向きだ。ここが今季5戦目と、使いこまれていないローテーションも好感が持てる。

 ただし不安なのは、硬い馬場を難なくこなしている一方で、速い時計の決着に対する適性が証明されているわけではない点だ。コテコテのヨーロッパ血統を背景に持つ上に、今季の3勝の勝ち時計を見ると、初戦のニューマーケットのハンデ戦(14F)が2分57秒05(=1F平均12.65秒)、続くヨークの準重賞(14F)が3分2秒15(=1F平均13秒01)、ジェフリーフリアS(13F61y)が2分49秒20(=1F平均12.74秒)と、いずれもかかっている。高速馬場への対応が鍵となりそうだ。

 ソレミア、スリプトラの2頭は、入国検疫期間を過ごした白井の競馬学校でそれぞれ単独での調整を強いられたのに対し、いずれもオーストラリアからの輸送となったレッドカドー、ジャッカルベリー、マウントアトスの3頭は白井でも同じ時間帯に馬場入りしており、この3頭には調整面でのアドヴァンテージがあったことは付記しておきたい。

 結論を述べるなら、日本馬にとってのホームとなる府中で、オルフェーヴルをはじめとした日本代表を打ち破れそうな馬はおらず、よほどの雨でも降らない限り、掲示板は日本馬が独占すると診ている。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

新着コラム

コラムを探す