2012年11月29日(木) 12:00
社会的に責任のある立場にある者には、特に守るべき心得がある。地位を利用して私腹を肥やさない「清」、つまり清廉ということと、自分の言行に慎重を期す「慎」、勤勉で精励という意味の「勤」である。この3つのことを忘れるなと古典は教えてきた。
清、慎、勤、この3つを守ることが出来たら、それはそれで合格と判定できるが、これにこだわりすぎると世間が狭くなることがあるので厄介だ。例えば「清」、それにこだわりすぎると、他人にもそれを強く求めることになってしまう。
これを潔癖とも狭量とも言うが、こうなると反発を買うばかりだ。ある程度は他人のすることには目をつぶる広い心が必要だと諭しているのである。
そう言えば、ジャパンCのゴール前、ジェンティルドンナとオルフェーヴルのあの死闘。逃げたビートブラックをかわそうと、外へ張り出したジェンティルドンナは、わずかなスペースをこじ開けようとしてオルフェーヴルにぶつけに行った格好になっていた。
あれさえなければという言い分は、当然出てくる。体を入れられで宙に浮いてしまってはと池江調教師はいかにも無念の表情ではあったが、つとめて淡々と話しているように見えた。
自分は清廉であっても、他人のしたことには懸命に目をつぶろうとする姿勢、「清にして能(よ)く容(い)るるあり」の心境と言っては言い過ぎだろうか。これは、発言や行動に慎重を期す「慎」につながる。そして、次の雪辱の機会を見出すための「勤」、精励、努力につなげていくことになる。
ジェンティルドンナのすごい能力には脱帽するが、だからと言ってオルフェーヴルが負けたとは、多くの者は思っていない。ジャパンCは、この2頭が完全に他を圧したレースであったと後に伝えていくべきだろう。そして両陣営とも、「清、慎、勤」の心を持って次なる目標に立ち向かってこそ、多くの者はこの結果を真っ直ぐに受け止めるのだ。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。