2012年12月05日(水) 12:00
今週の日曜日(9日)、シャティン競馬場を舞台に恒例の香港国際競走が施行される。4レースに集った顔触れはいずれも水準が高く、今年の世界の競馬を締めくくるに相応しい熱戦が期待できそうだ。
幕開けとなるのが、現地午後2時(日本時間午後3時)発走のG1香港ヴァーズ(芝2400m)。日本から、これがこのレース4度目の参戦となるジャガーメイル(牡8)が出走する。
中心となるのは、昨年に続くこのレース連覇を目指す仏国調教馬デュナデン(牡6、父ニコバー)か。G1メルボルンC(芝3200m)からここと言うのは昨年と同じローテーションだが、昨年はメルボルンCを勝っての参戦だったのに対し、今年は1番人気を裏切り14着に大敗しての参戦となっている。
ただし、昨年のメルボルンCはハンデ54.5キロでの出走だったのに対し、今年は59キロを背負わされての出走で、しかも追い込むこの馬には不向きなスローペースになった。ここは、ダンシングレイン(牝4、父デインヒルダンサー)という逃げ馬がいて、前走G1カナディアン国際(芝12F)を逃げ切ったジョシュアツリー(牡5、父モンジュ−)もいる。
さらに地元のリベレイター(セン5、父エンコスタデラーゴ)もある程度前目につける馬だから、平均以上の流れになる公算が大きく、そうなると、前々走のG1コーフィールドC(芝2400m)で見せたような強烈な決め手が持ち味のこの馬が、本領を発揮出来る競馬になるとみる。
レイティング最上位は、英国調教馬シームーン(牡4、ビートホロウ)になる。昨年のG1BCターフ(芝12F)2着馬で、今年のロイヤルアスコットではデュナデンに3.1/4馬身差をつける完勝でG2ハードウィックS(芝12F)を制し、G1キングジョージ(芝12F)で1番人気の推された馬である。ところがそのキングジョージが、案外な競馬で5着に敗退。条件的にはこの馬向きと思われた前走G1凱旋門賞(芝2400m)も8着と敗れ、シーズン開幕当初の高い期待に応え切れていないのが実情だ。
その後、前年好走のBCターフも、管理するM.スタウト師が過去2勝しているG1ジャパンC(芝2400m)もスキップしてここというローテーションが不気味ではあるが、レイティングの高さほどは信頼しかねるというのが現状であるように思う。
このレースの過去の成績が3着、4着、4着と安定しているジャガーメイルには、これまで同様の健闘を期待したいと思う。
現地午後2時40分、日本時間午後3時40分発走のG1香港スプリント(芝1200m)には、2年連続の参戦となるカレンチャン(牝5、父クロフネ)と、そのカレンチャンを破ってG1スプリンターズS(芝1200m)を制したロードカナロア(牡4、父キングカメハメハ)の2頭が参戦する。
このレースで中心となるのも、連覇を狙う前年の勝ち馬で、おそらくは1番人気になるであろうラッキーナイン(セン5、父ドバウィー)になろうか。マイルまで融通性のある馬だが、本分は1400m以下の距離にある馬だ。昨年は、スプリンターズSで5着に敗れた後、このレースに直行だったが、今年は、スプリンターズSの5着までは前年と同じだったが、帰国後の11月12日にG2ジョッキークラブスプリントを使われ、きっちりと勝利を収めての参戦となっている。
“1回使えた”のは昨年よりも体調が良いからで、しかも、自身より5ポンド斤量の軽いタイムアフタータイム(セン5、父デインヒルダンサー)を力でねじ伏せた競馬振りは、見事なものだった。連覇へ向けてまずは盤石の態勢が整ったと見て良さそうである。
ロイヤルアスコットのG1キングズスタンドS(芝5F)を制したレース振りがいまだに鮮烈な記憶として残るリトルブリッジ(セン6、フォルタート)は、今季ここまでの2走でいずれも大敗しているが、これが香港でありがちな“死んだふり”なら、見限ると痛い目に会うことになる。直前の馬の気配に細心の注意を払いたい1頭である。
この路線の水準の高い豪州でG1・3勝の実績を誇るシーサイレン(牝4、父ファステストロック)も、能力的に争覇圏にいる馬だろう。
このレースでは過去実績を残せていない日本馬ではあるが、1年前のことを考えると、おおいにチャンスがありそうなのがカレンチャンである。成田空港で機材トラブルがあって機内に18時間も足止めされた段階で、すでに大きな不利を背負うことになった同馬。
体が減って、レース直前の木曜日・金曜日と2日連続で馬場入りを控えざるを得ないことになり、なおかつ道中進路がなくなる場面があるという、まさに踏んだり蹴ったりの状況に追い込まれながら、勝ち馬に2馬身余りしか負けていない5着に頑張ったのだ。輸送から現地での調整がスムーズに運び、レース中も不利なく立ち回ることが出来れば、あの2馬身を詰めるのにそれほどの労苦はいらないように思う。
ロードカナロアともども、1着を目指す競馬をしてほしいところで、ことにここがラストランとなるカレンチャンには、最高に格好良いエンディングのヒロインとなることを期待したい。
現地3時50分、日本時間4時50分の発走となるG1香港マイル(芝1600m)にも、グランプリボス(牡4、父サクラバクシンオー)、サダムパテック(牡4、父フジキセキ)という2頭の日本代表が参戦する。
レイティング最上位は、ここ2シーズン連続で香港の年度代表馬に選出されているアンビシャスドラゴン(セン6、父ピンズ)だ。昨年のこの舞台では2000mのカップに出走したが、今年はマイルに矛先を向けてきた。昨シーズン後半は、メイダンのG1ドバイデューティーフリー(芝1800m)で1番人気を裏切り7着に敗れ、帰国直後のG1チャンピオンズマイル(芝1600m)も4着に敗退。
さらに、史上2頭目の古馬三冠が掛かっていたため、守備範囲を越えた距離のG1チャンピオンズ&チェイターC(芝2400m)に挑んで2着と、相当に無理な使われ方をしたため、その疲労残りが心配されたが、今季初戦のG2シャティントロフィー(芝1600m)を快勝して不安を払拭。前走G2ジョッキークラブマイルも、自分より5ポンド斤量の軽いグロリアスデイズ(セン5、父ユーゾネット)の1.1/2馬身差2着と、悪くない競馬をしている。
この路線における春の頂点であるG1チャンピオンズマイル(芝1600m)を、ここ2シーズン続けて制しているのがエクステンション(牡5、父ザール)だ。季節的に春のほうがパフォーマンスが上がる馬のようにも見えるが、昨年のこのレースが勝ち馬からクビ差+クビ差の3着だったから、冬がダメという馬ではなさそうである。
実績的には最上位と言ってもおかしくないのが、仏国から参戦のシユーマ(牝4、父メディシアン)だ。アガ・カーン殿下の生産馬で、3歳時は殿下の所有馬として走ったが、2戦1勝という成績に終わって殿下に見限られることになり、昨年12月のアルカナ・ディセンバーセールに上場されて、22万ユーロで現在の馬主に購買されている。
4歳を迎えた今季になって素質が開花し、9月にニューマーケットのG1サンチャリオット(芝8F)を制して、重賞初制覇をG1で達成。続いてカナダに遠征してウッドバインのG1EPテイラーS(芝10F)も快勝と、ここへ来て急上昇を見せている。自分の競馬が出来れば、ここでも突き抜ける可能性のある馬だろう。
日本から参戦の2頭にも、充分チャンスがある。ことに、昨年夏にロイヤルアスコットのG1セントジェームスパレスSに参戦したグランプリボスには、遠征経験という大きなアドバンテージがある。前走のG1マイルCS(芝8F)も、道中スムーズな競馬が出来ていれば勝っていた競馬で、ここはアタマを獲るつもりの競馬をしてほしいものである。 日本馬の参戦はないものの、興味深い顔合わせとなったのが、現地午後4時30分、日本時間午後5時30分の発走となるG1香港カップ(芝2000m)である。
レイティング的には、ワールドサラブレッドランキングでフランケルに次ぐ第2位の座にあるシリュスデゼーグル(セン6、父イーヴントップ)が1頭抜けた存在だ。ただし、4年連続の参戦となる香港では、09年がヴァーズに出て5着、10年がカップに出て7着、昨年もカップに出て5着と、地元における同馬と比べると明らかにパフォーマンスが落ちている。
要因が馬場にあるのか、気候的な問題なのかは定かではないが、この馬の本領発揮を阻害する何らかの要素が香港にあるのだとしたら、他馬にも付け入る隙がありそうだ。
もう1つのポイントは展開だ。どうしてもハナを切りたい馬がおらず、このレースで4〜5年に一度は見られる「超スローペース」に陥る可能性がある。発馬後まもなく第1コーナーというレイアウトの2000m戦でもあるだけに、ペースと展開については、木曜日の枠順確定後に改めて入念に吟味をする必要がありそうだ。
打倒シリュスデゼーグルの一番手となるのは、昨年に続くこのレース連覇を目指すカリフォルニアメモリー(セン6、父ハイエストオナー)か。地元の前哨戦G2ジョッキークラブC(芝2000m)でも、苦しい競馬を強いられながら勝ち切っており、地元ファンの期待は大きい。
仏国から遠征した今季のG1仏ダービー(芝2100m)馬サオノワ(牡3、父チチカステナンゴ)も、能力的にみて争覇圏にいる1頭と言えよう。
重賞2勝のほか、ロイヤルアスコットのG1プリンスオヴウェールズS(芝10F)2着、G1英ダービー(芝12F10y)3着などの実績がある、エリザベス女王の所有馬カールトンハウス(牡4、父ストリートクライ)の参戦も、大きな話題となっている。
香港国際競走の模様は、グリーンチャンネルで放映される予定(午後4時45分〜6時)なので、ぜひご注目いただきたい。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。