ドバウィー産駒に世界が注目

2012年12月12日(水) 12:00

12月3日から6日まで英国ニューマーケットで開催された、欧州最大のブリーディングストックセール「タタソールズ・ディセンバセール牝馬セッション」は、平均価格こそ17.8%下落したものの、総売り上げがほぼ前年並みで、バイバックレートは前年より大幅に下がって2割を切るという、堅調なマーケットが展開された。景気の先行きが不透明な中で開かれた市場としては、及第点を付けられる結果で、関係者は安堵の思いとともにクリスマスシーズンを迎えようとしている。

 そんな中、血統的トレンドという面で台頭が目立ったのが、ニューマーケットのダルハムホールスタッドで供用中の種牡馬ドバウィーだった。

 4日間のセールを通じて、50万ギニー(約7155万円)以上で購買された受胎牝馬は10頭いたが、このうち3頭が、ドバウィーを受胎していた牝馬だったのだ。ドバウィー以外では、欧州生産界の次代を背負うと言われるシーザスターズを受胎した牝馬が2頭いて、複数の受胎牝馬を「トップ10」に送り込んだ種牡馬はこの2頭のみ。しかも、シーザスターズ受胎牝馬は全部で7頭上場されて、50万ギニー以上が2頭だったのに対し、ドバウィー受胎牝馬は全部で5頭しか上場されていなかったのに、そのうち3頭に50万ギニー以上の値が付いたのである。争奪戦はそれほど激しかったのだ。

 その3頭のうち、セール3番目の高値となる100万ギニーで購買されたのが、12歳の牝馬ブルーシンフォニーだった。すでに、G3ネルグウィンS勝ち馬ファンタジア、G3ギヴサンクスS勝ち馬ピンクシンフォニーらの母となっているブルーシンフォニーは、その母がG1チーヴァリーパークS勝ち馬ブルーダスターで、近親にG1ミドルパークS勝ち馬ザイーテンらがいる牝系の出身だ。そして、同馬を購買したのは愛国のクールモスタッドだったというのが、1つのポイントとなる。

 クールモアスタッドと言えば、ドバウィーを所有するダーレーとはライバル関係にある生産組織で、普段はライバルに所縁の血脈には互いにあまり手を出さないのだが、ライバルと言えども高く評価し、高額の投資を行ってでも入手したいと思わせるのが、ドバウィーを受胎した良血牝馬だったのだ。

 2002年生まれで、年が明けると11歳となるドバウィーは、ダーレーの生産馬で、ゴドルフィン所有馬として2004年6月にデビュー。2歳時には3戦し、G1ナショナルS(芝7F)を含めて負け知らずの3連勝を記録し、愛国の2歳牡馬チャンピオンとなった。1番人気に推された3歳初戦のG1英二千ギニーで5着に敗れて連勝が止まるも、続くG1愛二千ギニーを制してクラシック制覇を達成。3歳夏には仏国のドーヴィルで、古馬を破ってG1ジャックルマロワ賞にも優勝している。

 競走成績もさることながら、ドバウィーの魅力をさらに際立たせているのが、その血統背景である。

 父は、G1ドバイワールドC、G1ジャックルマロワ賞、G1クイーンエリザベス2世S、G1プリンスオヴウェールズSなどを制した名馬ドバイミレニアムだ。御承知のように、ドバイミレニアムは種牡馬としてわずか1年供用されただけで早世したから、その血脈を受け継ぐ貴重な存在がドバウィーなのだ。

 さらに、ドバウィーの母はG1伊オークスを制しているチャンピオン牝馬ザマラダーで、近親に英ダービー馬ハイライズ、G1ローマ賞勝ち馬ハイホーク、G1BCターフなど3つのG1を制したインザウィングス、G1英千ギニー勝ち馬ヴァージニアウォーターらがいるという、欧州の名門ファミリーを背景にしているのである。

 2006年に種牡馬入りし、2009年に初年度産駒がデビュー。既に競走年齢に達した4世代の産駒から、北半球では、G1ドバイワールドC勝ち馬モンテロッソ、G1英二千ギニーなどG1・2勝のマクフィー、G1クイーンエリザベス2世S勝ち馬ポエツヴォイス、G1イエローリボンSなどG1・2勝のドバウィーハイツなどを輩出。南半球でも、豪州でG1エプソムHなどG1・2勝のシークレットアドマイラー、南アフリカでガーデンプロヴァンスSなどG1・2勝のハッピーアンカーらを出現。さらに香港でもG1香港スプリント勝ち馬ラッキーナインが登場するなど、世界の各地で活躍馬が出現している。

 これだけ世界中で走っているドバウィー産駒なのに、驚くほど少ないのが日本でデビューした仔だ。

 現在まで、JRAでデビューしたドバウィー産駒は、2007年9月に豪州で生産されて日本へ輸入された、フレデフォート1頭のみ。同馬はこれまで2勝を挙げ、現在1000万下条件に所属している。

 確認出来た範囲では、2011年生まれや2012年生まれの世代に3頭の持ち込み馬がいる他、ドバウィーの直仔としてすでに種牡馬入りしているマクフィーを受胎した牝馬が2頭日本に導入されているが、今後ドバウィーの血が日本に影響力を残して行くとしたら、当面の橋頭保となりそうなのが、前段でドバウィーの北半球における代表産駒の1頭として名前を挙げたドバウィーハイツになろう。

 現在5歳の暮れを迎えている同馬は、昨年秋のファシグティプトン・ノヴェンバーセールに上場されたところを、社台ファームが160万ドルで購買し、現在は日本で繁殖牝馬となっているのだ。

 初年度の交配相手はディープインパクトで、来年2月21日が初仔誕生の予定日となっている。だいぶ先の話になるが、ドバウィーの血をひく超良血馬の日本でのデビューが、今から待ち遠しい限りである。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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