2012年12月13日(木) 12:00
一瞬のなかに永遠がある。この言葉が好きだ。釈迦が悟りを開いたのは、菩提樹の下で暁の明星のきらめきを見た瞬間だった。そのとき世界がつかめたというのだ。一瞬だからこそその正体が見え、その秘密、その真実を垣間見たように思える。すべて、一瞬という短い瞬間が広く大きいものと結びつくことを示していると感じてきた。
名牝の道を一歩踏み出したローブティサージュの勝利にもそれがあった。
レースで運命を託されたのが秋山真一郎騎手。最大のポイントだった1番枠からどう戦うか。スタートの直前に下した一瞬の判断が、内で行こうだった。そして思い通りのポジションからチャンスをうかがい、馬群がばらけた瞬間を逃さずゴーサイン、馬も瞬時に反応したのだった。
ローブティサージュは、夏の函館1800mでデビュー勝ちしたが、ここで須貝調教師の閃きが成長を促す放牧だった。暮れの阪神ジュベナイルFという願望はあったろう。
ファンタジーSで手応えを感じ、放牧という一瞬の判断が正解だったという実感を得ての出走。厩舎の勢いもあったろう。これで重賞は今年8勝目。ゴールドシップの菊花賞もこの中に含まれる。際立っているのが見極めの速さだと評判だ。それが的確あれば何よりも馬にとっては一番いい。
須貝調教師は、改行した折、こんな風に語っていた。競馬はブラッドスポーツだから、その血統に恥ずかしくないレースをしたい。愛情、感謝、責任をモットーに精進していくと。騎手時代、両前脚が弱く、牧場や厩舎の人たちの努力で最後の特別戦を勝って繁殖に上がったキタサンヒボタンを一番の思い出と語っていたが、このときスタッフの力の結晶には深く感謝したというその思いが、馬に接する態度にもあらわれているのだろうと思う。だからこそ、その一瞬の判断がものを言うのだろう。なにかが見えている。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。