2013年01月12日(土) 12:00
これが2013年の初更新である。ということで、今年もよろしくお願いします。
さて、2012年度の年度代表馬にジェンティルドンナが選出された。私は、「次点」のゴールドシップとの差はそれほど大きくならない可能性もあると思っていたのだが、ふたをあけてみればジェンティルが256票、ゴールドが21票と、ジェンティルの圧勝だった。
ジェンティルは、牝馬としては1971年トウメイ(啓蒙社時代)、97年エアグルーヴ、08、09年ウオッカ、10年ブエナビスタにつづく史上5頭目、3歳牝馬としては史上初の栄冠を獲得した。同馬はまた、史上4頭目の牝馬三冠馬でもあるわけだが、過去3頭の牝馬三冠馬はいずれも年度代表馬になることはできなかった。ということはつまり、ジェンティルは「牝馬三冠馬初の年度代表馬」でもあるわけだ。
では、過去の牝馬三冠馬が三冠を勝った年にどの馬が年度代表馬になったのかを見ていきたい。左が牝馬三冠馬、右が年度代表馬とその年の主な勝ち鞍である。
86年メジロラモーヌ/ダイナガリバー(ダービー、有馬記念) 03年スティルインラブ/シンボリクリスエス(天皇賞・秋、有馬記念) 10年アパパネ/ブエナビスタ(ヴィクトリアマイル、天皇賞・秋)
牝馬三冠をすべて勝っても、それ以外のGIを2勝した馬にタイトルを持って行かれている。それに対して、クラシック三冠(皐月賞、ダービー、菊花賞)を勝った馬は(年度代表馬のタイトルがなかった41年のセントライトを除き)、64年シンザン、83年ミスターシービー、84年シンボリルドルフ、94年ナリタブライアン、05年ディープインパクト、11年オルフェーヴルとすべてその年の年度代表馬になっている。
これはすなわち牝馬三冠の「重み」が認められてこなかったことの証でもあるわけだが、ジェンティルは、1歳上のクラシック三冠馬にして前走の凱旋門賞で惜しすぎる2着となったオルフェと、その凱旋門賞を勝ったソレミアらを相手に、これも3歳牝馬として史上初めてジャパンカップを制覇したことが高く評価されたのだろう。
近年、ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタといった名牝が牝馬全体のステイタスを上げてきた。それに加え、今回のジェンティルの戴冠によって、牝馬三冠の価値も高まることを期待したい。
一方のゴールドシップは、皐月賞、菊花賞のクラシック二冠と有馬記念を圧勝しながら年度代表馬にはなれず、最優秀3歳牡馬のタイトルを獲得しただけに終わった。
クラシック二冠を勝った馬と賞の関係を、牡牝平等を期すために、メジロラモーヌが史上初の牝馬三冠馬となった86年(年度代表馬が優駿賞だった最後の年で、翌年から現在のJRA賞になった)から見ていくと、次のようになる。
87年サクラスターオー(皐月賞、菊花賞/年度代表馬) 91年トウカイテイオー(皐月賞、ダービー/年度代表馬) 92年ミホノブルボン(皐月賞、ダービー/年度代表馬) 97年サニーブライアン(皐月賞、ダービー/最優秀3歳牡馬) 98年セイウンスカイ(皐月賞、菊花賞/受賞なし) 00年エアシャカール(皐月賞、菊花賞/最優秀3歳牡馬) 03年ネオユニヴァース(皐月賞、ダービー/最優秀3歳牡馬) 06年メイショウサムソン(皐月賞、ダービー/最優秀3歳牡馬) 12年ゴールドシップ(皐月賞、菊花賞、有馬記念/最優秀3歳牡馬)
私もこうして書き出してみるまで、あんなに強いレースを見せてくれたゴールドシップが気の毒だとしか思っていなかったのだが、セイウンスカイが最優秀3歳牡馬のタイトルすら獲っていなかったとは……、そりゃあんまりでしょう、という感じである。
振り返ってみると、あの年の最優秀3歳牡馬は、NHKマイルCとジャパンカップを勝ったエルコンドルパサーだった。ダービーを5馬身差で圧勝したスペシャルウィークも同年のJRA賞は無冠に終わっている。
これはもう「相手が悪かった」としか言いようがない。
ゴールドシップもそうなのか。
いや、個人的には、3コーナーからぶっ放して前をひとまくりにした有馬記念の勝ちっぷりなどから、クラシック二冠制覇との合わせ技で、去年のオルフェ以上に強烈なものを感じた。心のなかで「とてつもなく強いで賞」を授与して、今年のレースを見守りたいと思う。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所