2013年02月09日(土) 12:00
今週の水曜日(2月6日)、ラジオのニッポン放送の「AGES〜エイジス〜」(月〜木、21時〜21時50分)にゲスト出演した。テーマは「競馬ビジネス転換期!」。概要はこちらのサイトを参照していただきたい。
上記のサイトで私と一緒に写っている女性が、パーソナリティをつとめる、歌手・DJのSILVAさんである。SILVAさんの競馬に対する認識度は、以前、わけもわからず友人に競馬場に連れて行ってもらったことがある、という程度。一般メディアで競馬についてあれこれ話す相手として、これほどピッタリの人はいない、という感じだった。
構成を担当しているのは、1980年代後半に私に競馬を教えてくれた「ウメさん」こと放送作家の梅沢浩一さんなのだが、トークの相手が競馬通のウメさんだったとしたら、今回のような話にはならなかったと思う。
オンエアの50分間ほぼベッタリあることないことしゃべらせてもらった。話の柱となったテーマは3つで、「武豊の本当にすごいところ」「競馬ビジネスの裏側」「新しい競馬の楽しみ方」であった。
先日JRA通算3500勝を達成した武騎手が、これまで獲得した賞金は708億円にも達するという(額は私も知らなかった)。彼のもとに入った進上金はその5パーセントだが、それでもとんでもない額だ。実は、先日武騎手に会ったとき、彼がこんな話をしていた。
「ぼくの獲得賞金、世界歴代トップだと思うんですよ。ギネスに申請したら、通りますかね。ギネスって、申請しないと認めてくれないんですよね」
20代の時点で年間獲得賞金は世界一になっていたので、これだけキャリアを重ねた今、歴代1位であることは間違いないだろう。
それをラジオでも話し、SILVAさんに「ぜひ申請してください」と言ったら、彼女は真に受けたらしく、番組終了後も「そっか、ギネス申請もあるんですよね」と呟くように言っていた。
番組中盤だったと思うが、「ギャンブルは不況に強い」と言われていた話をしようと、ハイセイコーが走った時代を例に挙げたら、SILVAさんがハイセイコーを知らないというのでズッコケた。まあしかし、考えてみれば、ハイセイコーを知らない人でも「武豊」については、顔はもちろん、イチロー選手とイメージが重なる、といったことまで知っているのだから、競馬界における武騎手の重要性を示してもいるわけだ。
以前からあちこちで書いたり言ったりしている、女性は競馬場の入場料を無料にすべきだ、ということも言えてよかった。性別確認のため、門のところで身分証明書の提示を求めるなどしていては大変なので、見かけが女性なら、そのまま無料で入れてもいい――という意味で、「女装したオッサンが来て、おれは女だと言ったら、そういう人も入れてやればいいんですよ」と言ったら、思いのほかウケた。ひとり魅力的な女性が来れば、そのフェロモンに惹かれて10人、20人の男がついてくるというのは、どの世界でも昔から当たり前のことだ。女性をタダで入れれば、入場料以上の金をその人や、彼女についてくる男たちが場内で落としてくれるのだから、ぜひやってほしいと思う。
私は話が長くなるタイプなので時間的に難しかっただろうが、最近話題になっている、馬券の払戻しを申告しなかった男性が5億円以上脱税したとして起訴され、裁判になった件についても触れられるとよかった。
2月7日にアップされた「読売オンライン」が、「競馬配当5億7000万円脱税、懲役1年を求刑」という見出しで端的に紹介しているので引用したい。
●競馬の配当で得た所得を申告せず、2009年までの3年間に約5億7000万円を脱税したとして所得税法違反に問われた元会社員の男性(39)の第3回公判が7日、大阪地裁であり、検察側は「課税処分を受けたのは自業自得。経緯に酌量の余地はない」として懲役1年を求刑した。 弁護側は「外れ馬券の購入費用も必要経費とみなすべきで、大阪国税局の課税処分は違法」と改めて無罪を主張し、結審した。判決は5月23日。 検察側は論告で、必要経費として控除されるのは当たり馬券の購入費のみであり、配当金は確定申告が必要な一時所得に当たる、と指摘。「被告は、外れ馬券分が控除されない可能性を認識していた」と述べた。 これに対し、弁護側は「確定申告が必要だとは日本中央競馬会(JRA)も周知せず、課税が行われてこなかったのが実態で、被告にとってあまりに過酷だ」と反論。男性は勤務先から促されて1月末で退職したことを明かし、意見陳述で「判決を見守っている人は多いと思う。適正な判決をお願いします」と述べた。 男性は地方税なども含め約10億円の課税処分を受け、これまでに計約6800万円を納税。現在も月8万円ずつ支払っているという。先月25日、国を相手に処分の取り消しを求める訴訟を大阪地裁に起こした。(『YOMIURI ONLINE』2013年2月7日)
それに関して、担当弁護士が自身の法律事務所のサイトで、この事案について説明したページがある。
驚いたのは、国税局が経費として認めているのが的中馬券を購入した金額だけ、ということだ。つまり、例えば1、2、3、4、5番の5頭を1点100円の馬連ボックスで買ったとする。買い目は10通りだから、購入金額は1000円、というのが私たちの感覚である。で、仮に「1-2」が的中し、20倍ついて2000円の払戻しがあったら、私たちは1000円遣って2000円払戻しがあったのだから「1000円儲かった」と思う。ところが、国税当局の指摘に従うと、この2000円の払戻しを得るために遣ったのは1-2の100円だけだから、私たちは「1900円儲かった」ということになる。そんなふうに計算して喜んでいる馬券師がいるとしたら、ぜひ会ってみたい。
今回起訴された男性は、05年から09年までの5年間で約36億6000万円の払戻しを得ているという。つまり彼は、国庫に3億円以上納付していることにもなるわけだ。その彼からさらに、生涯かけても払えない額の税金をとろうとしているのだから恐ろしい。
百歩譲って、前記の例のように、そのレースに要した馬券、あるいはそのレースの同一種類の馬券の合計ぐらいは経費として認められないと、怖くて馬券なんて買えなくなってしまう。経費として認める幅をひろげると、床に落ちていた高額の外れ馬券を拾って、「これもおれの経費だ」と言う者も出てきそうだが、少なくとも今回起訴された男性の場合は、自分の金だけを出し入れしたことが銀行(どこの銀行だろう?)に記録として残っているはずだ。
競馬は世界中で行われ、宗教上の理由などがある場合を除いて、どの国でも馬券が売られている。こんなやり方が「世界の常識」としてまかりとおるようになったら、産業としての競馬が成立しなくなるかもしれない。
94年、ブリーダーズカップ取材のためアメリカに行ったとき、某テレビ局のカメラマンが各レースの1着当てをする馬券で完全的中ではなかったが、準的中のような感じで当たったらしく、日本円にすると500万円ほどの払戻しがあり、チャーチルダウンズ競馬場内で納税したことがあった。これは通訳として彼が税金をおさめるのについて行った知人に聞いた話なので間違いない。余談だが、そのカメラマンは帰国後すぐに会社を辞めたという。
100円が2億円になる馬券を売っている時代なのだから、この例のように、一度の払戻しが500万円とか1000万円を超えた場合のみ申告すればいい、というルールが現実に則したものと言えるのではないか。
それにしても、今回のケースはどうして課税当局に知られることとなったのか。前述の弁護士の説明ページには「わかりません」と書かれているが、違法な手段で得た証拠は証拠能力がないのだから、合法的に情報を入手したはずだ。だとしたら、情報を提供した銀行名なども検察サイドが明かすべきだろう。
判決は5月23日にくだされる。
バックナンバーを見る
このコラムをお気に入り登録する
お気に入り登録済み
お気に入りコラム登録完了
島田明宏「熱視点」をお気に入り登録しました。
戻る
※コラム公開をいち早くお知らせします。※マイページ、メール、プッシュに対応。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所