浜中騎手に好運をもたらした見えない力

2013年02月21日(木) 12:00

 見えない力を信じる、心身が充実しているとき訪れる不思議な心境にこれがある。ひたすらお経を唱えるのは、こうした心の安寧を得たいからでもあるのだが、いま流行っている写経にもこんな人の思いがうかがえる。

 また、賛美歌にもこんな力がありそうだ。いずれにせよ、ひたすら一心にあることに打ち込むことで訪れる心境には、ゆるぎない力が漲ってくるように思えてならない。だからと言って、こうすることだけが正しいというような余計な思いはそこにはない。ただ、ひたすらそうし続けているだけなのだ。

 見えない力を信じるという心境は、それ以前にあったさまざまな思いを経由して到達するものという見方も、また別にあると思う。ある一線を越えたことで得られる心の有り様、それが人の思いを遂げさせてくれる。競馬の中にそれを見ることがよくある。

 グレープブランデーでフェブラリーSを勝った浜中騎手。昨年、JRAの全国リーディングに輝いても、あとひとつ何かタイトルがほしかった。初のチャンピオンに花を添えるGI優勝。ゴールが見えてきた暮れには密かにそれを願っていたのだが、思いは叶えられなかった。どうしてもプレイに力みが感じられてと言ってはプロに申し訳ないが、新しい年への期待をそれだけ大きくしていた。

 返し馬で好感触を得ていて、それで、レースに行って馬の体と気持ちがうまくかみ合って戦うことができたと述べていたが、人馬の一体感が受け取れた言葉だった。こういうときには騎手の思いが馬にも通じるもので、外に持ち出したとき、馬が自然にハミをかんでくれたと言うから、まさにそうだったのだ。

 それこそ、見えない力が働いて浜中騎手の背中を押したのだが、そこまでに至る葛藤があったからこそ到達できた心境と言ってもいいだろう。ひたすらにレースのこと、馬のことを考え、こうありたいと念ずる心がいつか大輪の花をさませてくれる、そう信じたい。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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