熊沢重文騎手(4)『ノリにはいつまでも乗っていて欲しい』

2013年02月25日(月) 12:00

今週が熊沢重文騎手インタビューの最終回。今年45歳を迎えたベテランの熊沢騎手。1期先輩の石橋守騎手が調教師試験に合格し、2月いっぱいで現役引退。熊沢騎手は、ご自身のこの先をどのように考えているのでしょうか。同期横山典弘騎手との知られざる会話も必見です。(2/18公開Part3の続き)


おじゃ馬します!

乗ることに関しては何をやってもポジティブに

:現役生活は28年目。ここまで長いこと続けてこられた秘訣というか、これだけはやっているということはありますか?

熊沢 :それは特にないんですよね。とにかく、馬が好きなんでしょうね。そこが一番大きいと思います。馬に乗っている時は楽しいですし、辛いなと思うことはまずない。競馬の内容で辛いなと思うことはありますけど、乗ることに関しては何をやってもポジティブに考えられる方ですから。

:この世界は考え出したらきりがないですし。そういう性格は、騎手としてすごくいいですね。

熊沢 :あまり神経質な人は長続きしないと思いますし、違うところで消耗してしまって大変だと思いますね。そういう意味では、僕みたいにあまり考えないくらいがちょうどいいのかもしれないですね(笑)。

:あはは(笑)。これから先のことをお聞きしたいのですが、渡辺薫彦さんや石橋守さんが引退となりました。熊沢さんご自身は、この先の騎手人生をどのように描いていらっしゃいますか?

熊沢 :僕は本当にもう、これしかできませんので。

:そうすると生涯ジョッキー。調教師の道は?

熊沢 :考えてないですね。自分には無理だというのはすぐ分かりますから。勉強できないですし(笑)。死ぬまでできればいいんですけど、そんなヨボヨボになるまでは乗せてもらえないでしょうからね。でも、できるところまでジョッキーでいたいなと思います。

:岡部幸雄さんが56歳まで。そこを目標にというのはありますか?

熊沢 :そうですね。岡部さんのように一流ではないのでコソコソと、でも長く。僕のモットーは“しぶとく”。「まだやってるの?」と言われるくらいにね(笑)。本当に、いつまでも競馬に乗っていたいなと、ジョッキーでいたいなと思っています。

:そのお姿に励まされる方もたくさんいらっしゃると思います。同期の横山典弘騎手と「何歳までがんばろう」とか、そういうお話をされることは?

熊沢 :まだそこまでですけど、「いつまで乗るんだ」くらいの話はしています。まあ、お互い半分冗談で返しているから、「こうだよ」って真剣に話したことはないんですけど。でも、僕はノリだったら、怪我とかしない限りはいつまでも乗っていられるだろうなと思いますし、乗っていて欲しいなと思います。

:お互い良いライバルというか。

熊沢 :勝ち負けというよりも、励みですよね。「あいつもやっているから、まだがんばらなきゃな」という。そういう部分では、良いライバルなのかな。

:熊沢さんご自身、1000勝まであと少しですね。

熊沢 :まあ、「何年かかってんねん!」という話でね(苦笑)。今は20代くらいでポンポン1000勝する子も出てきているのに。

:今はジョッキーさんも上下の差があると言いますか、早くから活躍する子もいれば、辞めて行く子もいて。

熊沢 :やっぱり今までほど恵まれなくなってきていますからね。でも、早く決断ができるのは、すごいなと思います。僕もそういう悩む時期がありましたけど、結局決断する度胸がなかったので。

:でも、続けることの大事さというのも。

熊沢 :まあ、それだけだったらかっこいい話ですけど、僕は「これしかない」というのも大きくて。「辞めてどうするねん」ってビビって辞められなかった。往生際の悪さですよね。「しがみついていればなんとかなるんじゃないかな」って思ってやってきましたから。

:本当に競馬がお好きで「これしかない」っていう、それが熊沢さんのスタイルで、他には真似もできないような感じだなと思います。熊沢スタイルでもう一つ気になるのが、髪の毛をすごく派手な色にいきなりチェンジされたりして。その時は何か心境に変化があるんですか?

おじゃ馬します!

2005年阪神JF(テイエムプリキュア)

おじゃ馬します!

「もう危ない年頃やから」

熊沢 :なんか一時、アホみたいに髪の毛をしていましたね(苦笑)。特別に何かあったわけじゃないんですけど、映画か何かを見て「かっこいいな」と思って、グレーというかシルバーにしたんですけど、やっぱり土台が土台だから、髪の毛だけ一緒にしたって一緒にはならなかったです(笑)。

:かなりインパクトがありました。

熊沢 :バカでしたね〜。まあ、いろんな人に言われましたけど。しかもあれ、大変なんですよ。伸びてきたらすぐ目立っちゃうし、最初にブリーチをかけるでしょ。そうすると、頭皮にかさぶたができてくるんです。あんなことをして、よくハゲなかったな〜って。だから最近はもう止めています。

:もうされないんですか? 髪の毛は全然大丈夫そうですが。

熊沢 :いやいや、もう危ない年頃やから。あまりいじめちゃ駄目です。また若い子がやってくれると思います。

:バトンタッチですね。今までジョッキーをされていて、良かったなと思うことは?

熊沢 :どんなレースでもですけど、やっぱり勝たせてもらったときはうれしいです。それと、厩舎スタッフとか周りの人に、いろんな相談に乗ってもらうんですね。勝ったり負けたりの仕事なので、そこは同じフィーリングを持っていますから。そういうアドバイザー的な人が山ほどいるので、良い世界だなと思います。そういう人とのつながりというのがすごく大きいと思います。

:縁って大事ですね。

熊沢 :本当にそうですね。ダイユウサクの縁で、今でも平田(修)先生に乗せていただいているんです。ダイユウサクは平田先生が助手時代に担当されていたので。僕結構ね、GIは数勝っていないけど、勝った厩務員さんとかが調教師になっているんです。オークスを勝ったコスモドリームは大橋(勇樹)先生が担当でしたし。

そういうつながりもあるから、調教師になってからも「クマ、これ乗るか」って、気軽に声をかけてきてくださって。そのコスモドリームも、僕が障害に乗り出して、松田博資厩舎の障害馬に乗せていただいた流れで、同じ厩舎のコスモドリームにも乗せていただいたんです。

:いろんなことがつながっているんですね。

熊沢 :つながっていますね。こじつければですけどね。でも、そういうのはすごく良い流れに持っていけますし、すごく良いモチベーションにもなります。どの世界でも一緒だと思いますけど、自分1人では絶対に何もできないですよ。

騎手になるきっかけを作ってくださった南井克巳調教師とお父さん、また僕の父親もそうですし、誰1人欠けてもジョッキーになっていなかった。

:いろんな方との巡り合いで、今の熊沢さんがあるんですね。

熊沢 :そうですね。本当に、誰が欠けても今の自分はいないと思います。馬鹿な話もできるし、競馬の話もできるという人がいっぱいいます。そうやって良い人に巡り会えて、楽しいですね。歳がいけばいくほど、そういう人がどんどん増えていくんだろうな。

:お人柄だと思いますし、その縁を生かせるか生かせないかはまたご本人次第なのかなって。

熊沢 :そこは生かしているんじゃなくて、生かさせていただいているんです。みんなに「よいしょ、よいしょ」と持ち上げてもらって、それでやってこられています。

おじゃ馬します!

「名前損してるよね(笑)」

:謙虚ですね。常に感謝の心を持たれているんですね。

熊沢 :今でこそ、ですけどね。20代の頃は「俺が俺が」って(笑)。

:そうだったんですか(笑)。今日こうしてじっくりお話をさせていただいて、シルバーの髪のイメージもあって「怖い方なのかな」と思っていたら、まったく逆でした。

熊沢 :あははは(笑)。名前からもすごくいかついイメージがあるらしいですね。まあいいけど、名前でだいぶ損していますね。名前負けじゃなくて、名前損!

:そのギャップがまたいいです。今日は長い時間ありがとうございました。(了)


◆次回予告

「おじゃ馬します!」3月のゲストは戸崎圭太騎手。いよいよ中央のジョッキーとしての船出の時、その胸の内に迫ります。また、恩師・川島正行調教師のインタビューも特別掲載。初回の公開は3/4(月)12時、お楽しみに!


◆熊沢重文

1968年1月25日、愛知県出身。栗東所属フリーの騎手。競馬学校第2期生として、同期は横山典弘、松永幹夫(現調教師)ら。1986年に内藤繁春厩舎からデビュー。デビュー3年目の1988年、コスモドリームでオークス優勝。当時の最年少GI勝利記録を打ち立てた。1991年ダイユウサクで有馬記念を勝利。2012年中山大障害をマーベラスカイザーで制し、(グレード制導入以降)史上初の平地・障害でのGI制覇となった。平地・障害両方で活躍する数少ない騎手である。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

東奈緒美・赤見千尋

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

新着コラム

コラムを探す