2013年02月28日(木) 12:00
勝たむと打つべからず、負けじと打つべきなり。双六の上手な人にその方法を尋ねとこうこう述べたと兼好法師は書いている。勝とうと思って打ってはならない。負けまいと思って打つべきだというのだが、勝利を目前にして早くケリをつけようと気持ちが先走るときミスをする、よくあることだ。
とにかく、勝つのではなく負けないと戦うのだが、岩田騎手の「負けるわけにはいかない」という言葉から、ふと徒然草のくだりが頭に浮かんだ。
世界を制したロードカナロアの新たなスタートは、58キロの7ハロン。どう戦うかの次元ではなかった。馬自身が自信を持っているかのような走りぶり。岩田騎手をして「理想的な展開」と言わしめたのは、ロードカナロアのスピードをコントロールするその能力があったから。これは凄いことだ。
スタートのタイミングが実にいい。香港スプリントもそうだったが、阪急杯でも、それを見せてくれた。そして、1400米を考えているかのように少し下がっていく。負けるわけにはいかない岩田騎手は、どこからでもレースができるとばかり、油断なくロードカナロアの気持ちに乗せていく。この辺の戦い方は、香港から戻りここを目標にきゅう舎サイドの意志をケイコの中でつかんだ馬の学習能力のあらわれだった。
レース後「完成しつつある」と言わせたその強さ。最強スプリンターが、この一年、どう結果を残していくか、楽しみだ。
この「負けまい」という心には、ていねいなプレイという意味が含まれている。「勝つための戦いでなく、負ける戦い」、競馬でも滅多に見られるものではない。今年は、その意味では貴重なシーンを見続けられる一年になるかもしれない。
勝負の秘訣をなにかに応用して生きていきたいのではないか。道を知っている人の教えは、どんな場面にでも生きてくるものだ。
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長岡一也
ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。