2013年02月27日(水) 12:00
先週の月曜日(18日)に北海道の富川で行われたダーレーのスタリオン・パレード(種牡馬展示会)で司会進行を務めさせていただいたが、その後、ダーレー供用種牡馬が海外に残してきた産駒による重賞制覇のニュースが、相次いで飛びこんで来た。
ドバイ発のグッドニュースが入ったのは、日本時間の21日(木曜日)深夜だった。メイダン競馬場で行われた開催の第4競走に組まれた牝馬によるG2バランチーン(芝1800m)を、キングズベスト産駒のサージハー(牝6)が制したのだ。
南アフリカの年度代表馬で、管理する南アの伯楽マイク・ドゥコック師が「自分が手掛けた最強馬」と公言してはばからないイグーグー(牝5)のドバイ初戦として話題となっていたのがバランチーンで、英国のオッズでもイグーグーが1.57倍という圧倒的1番人気に支持され、3.5倍の2番人気がサージハーだった。
レースを引っ張ったのはイグーグーで、久々の影響からか掛かり気味にハナを切ってハイラップを刻んだ中、サージハーは4番手を追走。
逃げ切りを図ろうとするイグーグーに、直線半ばで馬体を併せて行ったのがサージハーで、そこからイグーグーを突き離して優勝。イグーグーは粘れず、勝ち馬から4.1/4馬身遅れの3着に敗れることになった。
ダーレーによる英国における生産馬がサージハーだ。当初はニューマーケットのM・ジャーヴィス厩舎に所属し、3歳5月にサンダウンのメイドン(芝10F)でデビュー勝ちを飾ると、次走はいきなりG1英国オークス(芝12F10F)に挑んでいるから、もともと素質を高く評価されていた馬のようだ。オークスでは大敗を喫したものの、3歳秋にはイタリアに遠征をしてG3セルジオクマーニ賞(芝1600m)を制し、重賞初制覇を果している。
4歳シーズンからゴドルフィンの所有馬となってS・ビンスルール厩舎所属となり、ヨークのG2ミドルトンS(芝10F88y)が2年連続2着、昨秋のG1リディアテシオ賞(芝2000m)4着など、悪くない競馬をしながら2度目の重賞制覇には手が届いていなかったが、今季の緒戦となった1月24日にメイダンで行われたG2ケイプヴァーディ(芝1600m)でようやく2つ目の重賞をゲット。勢いに乗って臨んだのがG2バランチーンだった。
英ダービー馬ワークフォース、日本ダービー馬エイシンフラッシュ、短距離G1モーリスドゲスト賞を制したキングスアポッスル、マイルG1サセックスSを制したプロクラメーション、長距離G1愛セントレジャーを制したロイヤルダイヤモンドなど、カテゴリーを問わず縦横無尽に活躍馬を輩出し続けているのが、サージハーの父キングズベストだ。これだけに実績を誇りながら、今季の種付け料150万円というのは価格破壊的な安さで、実際に種付け申し込みが殺到し予約がとりづらい状況と聞いている。
日本時間の24日(日曜日)朝にアメリカから飛び込んで来たのが、ストリートセンス産駒のアンリミテッドバジェット(牝3)によるG3レイチェルアレグザンドラS(ダート8.5F)制覇のニュースだった。
このコラムでも以前ご紹介したことがあるが、今年から北米のケンタッキーダービーとケンタキーオークスの出走馬は、指定された競走で獲得したポイントの多い順に選ばれるシステムが導入され、G3レイチェルアレグザンドラSはケンタッキーオークスへ向けたポイント競走に指定されていた一戦だった。 2番人気のダンシングインザサークル(牝3、父ディヴァインパーク)がハイペースで逃げ、縦長の展開となった中、2.5倍の1番人気に推されたアンリミテッドバジェットは10頭立ての5番手を追走。3コーナーから進出を開始した同馬は、直線残り350m付近で先頭に立ち、そこからグイグイと後続を引き離して、最後は2着馬に3.3/4馬身差を付ける快勝となった。
フロリダ産馬のアンリミテッドバジェットは、昨年3月のOBSマーチセールに上場され、市場5番目の高値となる47万5千ドルで馬主のM・リポール氏に購買され、T・プレッチャー厩舎に入厩。昨年11月9日にアケダクトで行われたメイドン(ダート8F)でデビューすると、ここを9./12馬身差で制して初勝利。次走は11月24日に同じくアケダクトで行われたG2デモワゼルS(d9F)に挑み、ここも1.1/4馬身差で勝利し重賞初制覇を飾っていた。
3か月の休養を挟んで出走したG3レイチェルアレグザンドラSも白星で通過し、デビューから3連勝を果したアンリミテッドバジェットは、今年の北米における3歳牝馬世代の最前線に躍り出たと言えよう。
ストリートセンスの初年度産駒は今年4歳となっている。北米に残してきた仔から、重賞勝ち馬やG1入着馬は続々と出ているものの、G1勝ちを果した産駒はまだ出現していないのがジレンマとなっているが、アンリミテッドバジェットはすぐにでもG1に手が届く水準にある馬と見て良さそうだ。
日本の馬産界は既に、完全に世界のトップリーグの一角に組み込まれており、キングズベストやストリートセンスのようなバリバリの「プルーヴンサイヤー(=既に実績をあげている種牡馬)」の導入も珍しいことではなくなっている。
そして、流れは決して一方通行ではなく、2月17日にブラジルのガヴェアで行われたG1エンリケポソロ大賞(芝1600m)では、日本から彼の地に渡ったアグネスゴールド(父サンデーサイレンス)の産駒が1・2フィニッシュの快挙を達成している。
種牡馬を巡る動向が、益々グローバルなものになっていくことは間違いなさそうである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。