2013年03月02日(土) 12:00
今の古馬戦線はオルフェーヴル、ジェンティルドンナ、ゴールドシップの「三強」で、明日、3月3日の弥生賞もエピファネイア、コディーノ、キズナの「三強」による争いになりそうだ。
春のクラシック戦線の場合、みなキャリアが浅いので、互いにあまり対戦経験がなくて当たり前だが、古馬戦線でその三強が一堂に会することもなければ、二強が残りの一強と一度も激突していないのに「三強」と呼ばれるケースは珍しいのではないか。
ゴールドシップは3歳だった去年、有馬記念で古馬と初めて対戦した。そのレースに出なかったオルフェともジェンティルとも未対戦のままである。
ゴールドは阪神大賞典、天皇賞・春、宝塚記念というローテか。オルフェは産経大阪杯のあと春天か宝塚だろうが、ジェンティルはドバイシーマクラシックのあとはどうするのだろう。ブエナビスタの例にならえば、ヴィクトリアマイルから宝塚になるのか。
ということは、順調に行けば宝塚記念で三強が揃う、ということか。
しかし、この古馬三強。タイプがそれぞれ違いすぎるだけに、下手をすると、もうしばらく「すれ違いの三強」でありつづける可能性もある。
まず、三強のうち一頭が牝馬という、おそらく日本競馬界史上初の事態がさらなる「すれ違い」を助長しかねない。ヴィクトリアマイル、エリザベス女王杯といった牝馬だけのGIがあるのだから、いい出来で臨めそうなら、他の二強と当たる路線よりも勝てる可能性の高いそちらに進むことは十分考えられる。
そして、オルフェはおそらく凱旋門賞にピークを持って行こうとするだろうから、他の二強とは違い「年内は国内で戦う」と早くから調教師が宣言しているゴールドシップとは、仕上げていく時期もプロセスもまったく異なってくるだろう。
ジェンティルはマイルからチャンピオンディスタンス(2400m)まで距離適性が幅広く、オルフェは2000mからチャンピオンディスタンスがベストっぽく、ゴールドはチャンピオンディスタンスかそれ以上の長さで真価を発揮するタイプだと思われる。
共通しているのは「強い」ということぐらいで、距離適性も、脚質も、切れ方もこれだけ違っているのだから、同じ舞台に顔を揃える機会はそう多くなりそうにない。
ここまで来たら、徹底的にすれ違い、どれか一頭の引退レースで「最初で最後の三強対決」が実現したりしたら、それはそれで面白いのかもしれない。
こんなふうに、あまり戦わないライバル関係って、かつてあっただろうか。他のスポーツなら、例えばボクシングのハグラー対ハーンズの戦い(1985年)などは、「ついに実現した!」「本当に対決するんだ!」という、最初で最後ならではのたまならい緊張感があって、30年近く経った今でも、胸の奥に当時の興奮が残っているのを感じることができる。
しかし、競馬に関しては、タマモクロス対オグリキャップの「芦毛対決」にしても、オグリキャップ、スーパークリーク、イナリワンの「平成三強」にしても、また、最近ではウオッカ対ダイワスカーレットの戦いにしても、何度も対決したからこそ「次」が余計に楽しみになり、思い入れも深まった。
やはり、今の古馬三強も、何度もやり合い、勝ったり負けたりしてほしい。
それにしても、呼び方が「今の古馬三強」じゃ、ちょっと芸がなさすぎる。70年代のトウショウボーイ、テンポイント、グリーングラスの「TTG三強」のような、気の利いたニックネームはないものだろうか。
「TTG」のように頭文字をとると「OGG三強」か。案外悪くない。今、検索してみたら、実際そう呼んでいる人もいるようだ。
スポーツ新聞の見出しに「OGG」という活字が踊るには、やはりOGG三強に、同じレースに出てもらうしかない。
もっとも早く実現するとしても、6月23日の宝塚記念か。1分半後にどの馬が1、2着でゴールするかもわからない私に3カ月以上先の未来について思考を巡らせる力はないので、それについてあれこれ言うのはここまでにしておく。
3月になった。本稿を書いている1日の金曜日、関東地方に春一番が吹いた。去年吹かなかった風が吹いたというだけで、ちょっと嬉しく感じられるのはなぜだろう。それはやはり、「春らしさ」を無意識のうちに求めているからか。「三強らしさ」が感じられる叩き合いを、何年ぶりになるのかわからないが、ともかく、今年は見てみたいものだ。
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島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。「Number」「優駿」「うまレター」ほかに寄稿。著書に『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリー『ブリーダーズ・ロマン』。「優駿」に実録小説「一代の女傑 日本初の女性オーナーブリーダー・沖崎エイ物語」を連載中。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナー写真は桂伸也カメラマン。 関連サイト:島田明宏Web事務所