2013年03月06日(水) 18:00 16
洋風の外観のカフェ・ブリッツ
店主の堀田勝之氏
いつか紹介しようと思っていたお店のひとつに「馬カフェ・ブリッツ」という喫茶店がある。場所は新ひだか町静内山手町。マクドナルドの角を日高山脈の方角に曲がり、2つ目の信号を過ぎた右側にこのお店がある。床が一段高く、洋風の外観を持つ喫茶店で、内部も広い。以前、ここはCBサービスという名称の商社だった建物で、そこを借りて2011年11月より喫茶店を開業したのが、堀田勝之さん(43歳)だ。「馬カフェ」というだけあって、店内は様々な馬グッズが展示されている。ゼッケンや競馬関連書籍なども並べられ、馬産地ならではの雰囲気が漂う。
店主の堀田さんは、奈良県出身。高校卒後、早稲田大学理工学部に入り、修士課程まで
進んだ。専門は電子工学。1995年に民間会社に入社し、16年間勤めて2011年に退社。本人曰く「震災の年(阪神大震災)に会社に入り、震災の年(東日本大震災)に退職したことになります」と。なるほど、確かにそういうことになる。
堀田さんと競馬との出会いは大学2年の時。折から、世はオグリキャップに代表されるように競馬ブームの真っただ中であった。
「競馬など全然知らなかったんですが、たまたま先輩に誘われて、ウインズ後楽園に行きまして。それがアグネスフローラの勝った桜花賞の日でした」
調べてみると、1990年4月8日のことである。堀田さんはその時、ウインズで桜花賞だけを見たらしいが、その次の週(中山で皐月賞が行なわれた)もまたウインズ後楽園に出かけ、今度は1レースから12レースまで全てを観戦したという。
「面白さを感じました。何の予備知識もなかったんですが、例えば競馬新聞の細かい字で書かれた馬柱なども私にとってはデータを解析して行くような楽しさを感じましたしね」
それでその翌週には、開催の始まった東京競馬場まで足を運んでみることにしたらしい。
「初めて競馬場というところに行きました。都会でありながら、こんなに広々とした場所が競馬という競技のために作られているのか、とすっかり感動してしまいましたね」
当時は競馬ブーム最盛期である。競馬場も大変な賑わいであった。堀田さんは、学業の傍ら、競馬場通いを続け、すっかり競馬にのめり込んで行った。
やがて日高にもやってくるようになった。しかし、ファンとして日高を訪れてみると、意外なほど、競馬ファンが滞在し楽しめる場所が少ないことに気がついた。
「また、失礼を承知で言いますが、一部の牧場では、見学にお邪魔した際に明らかに私たちファンを“歓迎できない人間”として対応して下さるところもありましたね」
おそらくそれは今でも変わっていまい。そもそも牧場にとっての客は、第一に馬主であり、調教師である。競馬人気が頂点に達していたあの時代、実際に私の周辺にも「調教師だって言うから応対したら、中央でなくて地方の調教師だったから『先生のところに売る馬なんかいない』って言って帰ってもらった」、あるいは「馬主が来たと思って出て行ったら、ただの一口馬主だったんでガッカリした」と平然と口にするような生産者が大勢いたのも事実だ。ファンに対する姿勢もまた、牧場によってかなりの落差があった。「可愛いネエちゃんが車から出てきて、『馬見せてくれ』って言うから『どうぞ』と答えたら、次の瞬間、助手席から図々しそうな顔した男も降りてきた。車に隠れていたんだ。ちくしょう」などと残念そうに話す生産者もいた。
カフェ・ブリッツの内部
様々な馬グッズが展示されている
堀田さんにとっての日高は、あまり印象の良いものではなかったらしい。そんなフラストレーションを感じながら日高を訪問しているうちに、競馬ファンの居場所がないのならば、いっそのこと自分で作ってしまおうと考えるに至ったのが2011年春のこと。「東日本大震災直後に浦河に来て、2カ月間ほど町の移住者用住宅に住まわせてもらい、物件を探したんです。でも浦河ではなかなかこういうお店に向いた物件がなくて、結局、静内のこの場所に落ち着きました」
できれば、牧場の風景が窓から見渡せるようなお店が望ましい、という。現在のお店は建物こそ洋風だが、町の中に建ち、牧場一望というわけではない。しかし、国道からも近く、利便性はある。
2011年7月にこの物件を契約し、3か月余りかけて自力で内部の床を張り替えたりした。その年の観光シーズンが終わる11月に開店したのは既述の通りだ。
店名の由来は「マイネブリッツ」からである。「ブリッツ」とは閃光というような意味のドイツ語で、堀田さんがラフィアン会員として出資し初めて1着を取った思い出の馬だという。
自慢のコーヒーは、豆の自家焙煎から手がける。店内は静かで、余分なBGMもない。
またコーヒーの香りを愉しんで頂くために、禁煙である。 定休日は火曜日。営業時間は午前10時~午後6時。来月下旬のゴールデンウィークが日高の観光シーズンの幕開けである。競馬ファンの方々の休憩にお勧めポイントだ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。