2013年03月13日(水) 18:00
坂路での練習風景
覆馬場での練習風景
「今は全体を3班に分けて、1班ずつJRAの育成馬研修に通わせています。坂路調教にも取り組んでいますし、週替わりで次の班と交代させます。これが修了式間際まで続く予定です」と語るのは斎藤昭浩教育係長である。
ちょうど12名(1名見学)の騎乗訓練が始まっていた。覆馬場にて常歩から軽速歩、駈歩まで、右回りと左回りを交互に行う。すでに全員の就職先も決定している。今年は道内の育成牧場への就職者が多く、18名中16名を数える。道外は2人。道内就職者は全員が日高管内に残る。牧場別ではビッグレッドファーム3人、富田牧場3人、新和牧場2人が複数いるが、後はいずれも1人ずつだ。BTC界隈の育成牧場にも今年は数多くの研修生が就職することになっている。
「正直なところ、もう彼らにはほとんど教えることがないんです」と斎藤係長は言う。基礎的な部分に関しては、すでに訓練を終えており、後は実際に就職して育成牧場で働き出してから、それぞれが創意と工夫とで現場の仕事に対応して行く以外にないということであろう。
30期生の1人、佐藤星(しょう)子さんに話を伺った。因みに佐藤さんの就職先は他の2人とともにビッグレッドファームだそうだ。
神奈川県出身の佐藤さんは、東京農大卒。大学院(修士課程)まで進み、某研究機関で働いていた彼女が「馬への道」を目指したのは、ひとえに「馬に乗りたいから」だったという。
本人はしかし、研修当初の辛さについて「それまで馬には観光地のようなところで首筋をペタペタ触る程度のことしかして来なかったので、戸惑いの連続でした」。そして「馬が実は結構やんちゃな動物で、噛んだりすることもここで初めて知りました。もっと大人しくて従順な動物だと思っていたので、意のままにならないことにずいぶん悩みました」と振り返る。
研修生の多くが、馬に触れる機会がないままここの門をくぐる。テレビなどで競馬を見ることはあっても、 実際に馬と接するには、乗馬クラブにでも行くなどしなければならない。
佐藤さんは「農大の学生だった時に馬術部に入っておけば良かったと少し後悔もしました」とも言った。佐藤さんはいわゆる「社会人経験者」としてここに入講し、あっという間に1年近くが経過した。「まだまだ、騎乗に関しては自信が持てなくて」と謙遜するのだが、その辺について斎藤係長は「むしろそれくらいの方が良いような気がします。時々、乗用馬での訓練しかして来ないにも拘わらず、変に自信たっぷりになってしまう研修生もいないわけではなくて、そういう生徒は育成牧場に就職してから壁につき当たり、案外続かなかったりもするんです」と分析する。
育成調教技術者を育てるための研修なので、いきおい騎乗に特化するのはやむを得ないが、育成牧場の業務は多様多岐にわたる。基本的な厩舎作業や手入れ、装蹄や治療の際の補助もあれば、来客の応対などもこなさなければならない。1年間でどこまで成長し、就職してから現場でどれくらいの戦力になれるかは、各人の努力とセンスによる。騎乗者としてはもちろんのこと、それぞれの育成牧場にとって欠かせない人材として評価されるまでにはなおしばらくの時間が必要になるだろう。
来月10日には新たに31期生21名が入講してくる。そして翌週19日には、晴れて30期生の修了式が行われる予定だ。またその時には当コラムで取り上げさせて頂くつもりでいる。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。